
温泉旅館の夕食などで出てくる、朴葉味噌。
そこには香ばしい香りを放つ味噌を乗せた巨大な葉っぱ。
「この巨大な葉っぱ、いったい何の木なの?」
そう、気になったことはありませんか。
あの葉っぱ、朴葉味噌の名前の通り「朴の木(ほおの木)」という木から落ちてきたもの。
しかし、この「朴の木」。ただ葉っぱが大きくて味噌をくるむだけの木、というわけではありません。
実はこの木、“食べ物カテゴリー”以外にも、日本の暮らしのいろいろな場面で活かされてきた木だったのです。
今回は、そんな朴の木の知られざる面までのぞいてみようかと思います。












旅館で見かける「巨大な葉っぱ」の正体
そもそも「朴の木」とは?日本の森に立つ大きな木
あの大きな葉っぱの持ち主である「朴の木」は、北海道から九州まで日本の山地に広く分布する落葉広葉樹。
(春先に美しい花を咲かせるハクモクレンやコブシと同じ「モクレン科」に属しています。)
「庭木」というよりは、山の中で見上げるような大きな木。
条件が合うと20メートルから30メートル級にまで育ちます。

↑朴の木
天狗の団扇のモデル!?日本の自生樹木で最大級の「葉」
そんな朴の木の一番の特徴は、なんといってもあの規格外の葉っぱ。
大きなものでは、大人の顔がすっぽり隠れるほどのサイズになります。
これは、日本の森に自生している木の中では最大級の大きさ。
枝の先にぐるりと放射状に葉をつけるので、下から見上げると、まるで緑色の大きな傘のようにも見えます。

↑朴の木の葉を下から
【補足】トチノキやカシワとの違い(朴の木に似た木)
大きな葉っぱを持つ木は、他にもいくつかあります。
その“ライバル”として有名なのが、カシワとトチノキ。
もしも山で大きな葉っぱを拾ったとき、葉の形を見てみてください。
カシワの葉は、縁が大きく波打っています。
そう、柏餅でおなじみの形です。

↑柏の木
トチノキは、朴の木とちがって、葉の先が少しギザギザです。
一方、朴の木の葉は、大きな卵を引き伸ばしたような形。
すっきりしたシルエットをしています。

↑トチノキの葉っぱ
朴葉味噌や朴葉寿司に使われる理由
この朴の木の葉っぱを料理に活用した代表例が、岐阜県の飛騨地方の郷土料理として知られる「朴葉味噌(ほおばみそ)」。
この大きな葉を、料理の器のように使うようになったのには、大きさ以外にもいくつか理由があります。

ひとつは「香り」。
味噌やねぎ、きのこなどをのせて炙ると、朴葉ならではの香りがふわりと立ちのぼります。
味噌の香ばしさに、葉の香りが自然に重なることで、料理全体に山の空気のような奥行きを足してくれる──
そんなイメージでしょうか。
ふたつめは「抗菌作用」。
朴葉には抗菌作用があるとされ、朴葉味噌以外にも、昔から食べ物を包む葉としても重宝されてきました。
たとえば、地域によっては、ごはんや具材を包む「朴葉寿司」さらには「朴葉巻」のような和菓子にまで使われてきました。
大きな葉で包む、香りを整え、持ち運びやすくする。
朴葉は、日本の食文化の中で、活躍してきた葉っぱなのです。

「朴の木」の花と実
初夏に咲く、直径約20cmの巨大で甘い香りの「花」
葉っぱのインパクトが強すぎる朴の木ですが、実は花もすごいのです。
初夏になると、直径20センチほどの、これまた巨大な白い花を咲かせます。
少しモクレンに似た、肉厚で気品のある姿です。
山を歩いていて、どこからともなく甘く強い香りが漂ってきたら──
その先には、上を向いて堂々と咲く朴の木の花が見つかるかもしれません。

↑朴の木の花
秋につける「赤い実」
季節が変わり、秋ごろになると、今度は不思議な形の実をつけます。
袋がいくつも集まったようなカタチの実です
その実が割れ、中から種子がぶら下がる姿は、初夏の白い花や緑の葉とはまた違った印象を与えてくれます。
朴の木は、季節ごとに見た目が変わり、森の移ろいを教えてくれる木でもあるのです。

↑朴の木の実
朴の木は庭に植えてはいけない?
ご近所トラブルを回避せよ。
少し話は変わりますが、朴の木について調べてみると、「庭に植えてはいけない」という言葉に時々出会います。
これは呪いや祟りのような話なのでしょうか?
そうではありません、理由はもっと現実的。
先ほども触れましたが、朴の木は、条件が合うと20メートル、30メートル級に育つ大きな木。
葉も非常に大きいため、秋になると、あの巨大な葉が“ばっさばっさ”と落ち葉に変わります。
その管理の負担の大変さは想像に難くないと思います。
また、雨どいや排水まわりに溜まりやすく、落ち葉管理不足が、家の方に影響がでることも。
広い庭や公園なら魅力的な木ですが、一般的な住宅の庭では、樹高、落ち葉、剪定、近隣への配慮まで考える必要があります。
「植えてはいけない」というより、「植える場所をかなり選ぶ木」と考える方が近いかもしれません。
朴の木に毒がある?!|「和厚朴」として重宝された生薬の歴史
そしてもう一点、「毒性があるのでは?」という声もネット上でいくつか見ました。
どうやら、葉を器や包み葉として使う食文化があるように、朴の葉がいわゆる猛毒植物として扱われているわけではありません。
(だからといって、野山で見つけた葉をそのまま口にしてよい、という意味ではありません)
どちらかというと、「葉」よりも「樹皮」について注意が必要のようです。
実は朴の木の樹皮は、「厚朴(こうぼく)」あるいは「和厚朴(わこうぼく)」と呼ばれる生薬として、漢方処方などに用いられてきた歴史があります。
毒というのは、薬として扱われてきたこと、いわば何らかの効能と副作用の、表裏一体、その裏返し。
だからこそ、薬効を目的に自己判断で利用するものではありませんね。
日本刀の鞘からまな板まで|木材としての朴の顔
朴の木の木材としての特徴
なにかと「葉っぱ」に目がいきがちですが、朴の木は木材としての活用もあります。
独特のくすんだ緑色を帯びた落ち着いた色合い。
散孔材ならではの、木目のきめの細かさと均一感。
それに、材は硬くもなく柔らかくもなく、暴れや割れが少ない、比較的加工しやすい材。
日本の文化では、定規や漆器の木地、そして足に負担がかかりにくいことから下駄などに使われてきました。
器としてじゃない|「まな板」として食まわりに。
今の暮らしでの一番身近なところでは、まな板があげられます。
朴の木の“ほどよい硬さ”が、包丁の刃当たりにとってやさしい材として親しまれてきたのです。
「トントン」と包丁を落としたとき、その刃先をやさしく受け止めてくれるイメージです。
刃こぼれを防いでくれるため、プロの料理人にも愛用者が多いようです。
「日本刀の鞘(さや)」には古来から朴の木が定番だった!?
そして、加工しやすく刃物に優しいという特性は、日本の歴史の中でとても重要な役割を果たしてきました。
包丁とまな板の関係を聞いて、ハッと思った方もいるかもしれません。
そう、日本刀を収める「白鞘(しらさや)」は、古来から朴の木が代表的に用いられてきました。
柔らかくて刀身を傷つけないことに加え、他の木材に比べてヤニが少ないという特徴もその理由の一つのよう。
(ヤニが少ないということは、鉄である日本刀を錆びさせにくいことにつながります)
侍の魂ともいえる日本刀を守る道具に、朴の木は使われてきたのですね。
まとめ|朴の木は日本の食文化と歴史を支える名脇役
朴葉味噌(ほおばみそ)から始まった、朴の木のお話。
日本最大級の葉っぱや花を持つだけでなく、
・料理人の包丁の相方にもなり
・お侍さんの刀の鞘にもなり
・生薬にも使われてきた
それが朴の木の正体だったのです。
次にどこか朴葉に包まれた料理を食べるとき、あるいは山で天狗の団扇のような落ち葉を踏んだとき、日本の文化を支えてきた名脇役として朴の木を眺めてみると面白いかもしれません。


