
焼きたてのアップルパイや、湯気の立つシナモンティー。
あの甘くて少しスパイシーな香りに、ふと心がゆるみます。
さて、そんなシナモンですが、その大元である「シナモンの木」を想像できる方は少ないのではないでしょうか。
シナモンといえば、茶色い棒と、細かい粉。
ふだん目にするのはそこまでで、もとになる木のことは、意外と知らないままだったりします。
またスパイスというと、胡椒やナツメグのように、実や種を乾かしたものが多い。
だからシナモンも、きっと木の実か何かなのだろう……と思うのが自然な流れかもしれません。
ところが、シナモンは少し事情が違うのです。
今回は、シナモンの木とはどんな木で、あの香りが木のどこから来ているのかを辿ってみようと思います。






シナモンの木の正体|あのスティックは「木の皮」だった
もったいぶらずに、まずは答えから。
シナモンは、木の皮からできています。
実でも、種でも、幹の芯でもありません。
幹や枝の表面をおおう樹皮、その内側のやわらかい層を使うのです。
つくり方も、なかなか手が込んでいます。
暖かい土地で育つシナモンの木を、あえて低く切りつめて育てる。
すると、株もとから細い若枝が何本も伸びてきます。
その若枝の外側のかたい皮を削り落とし、欲しい内側の皮だけを薄くはいでいく。
はいだ皮を乾かすと、水分が抜けるにつれて、くるりと内側へ丸まっていきます。
あの筒状のスティックは、この性質を使って、皮を巻いて乾かした姿だったわけです。
粉のシナモンは、その皮を細かく砕いたもの。
香りのもとは、木の中心ではなく、木を包む皮の側にありました。

↑外の皮を削られたシナモンの木
クスノキの親戚|香りで身を守る一族
では、その皮をまとう木は、どんな木なのでしょう。
シナモンの木は、クスノキ科クスノキ属の常緑樹です。
つまり、樟脳(しょうのう)でおなじみのクスノキと、同じ属の親戚にあたります。
クスノキは、削るだけで強い樟脳の香りが立ち、その精油分のおかげで虫にも強いとされる木です。
シナモンの木の葉や枝も、折るとほのかに香るといわれます。
香りの成分そのものは違うのですが、どちらも香りの強い一族だと思うと、親戚だというのも腑に落ちますね。
(クスノキは木材になったあともまだ香る——その話はクスノキが仏像や箱に選ばれてきた記事でくわしく辿りました。)


↑シナモンの木の若枝
セイロンとカシア|スティックの巻き方が違う
このシナモンの一族には、大きく二つの顔があります。
スリランカ原産の「セイロンシナモン」と、中国やベトナムなどでとれる「カシア」です。
セイロンは、紙のように薄くはいだ皮を何枚も重ねて巻き、締まった筒に仕上げるといわれます。
香りは繊細でやわらか。
一方のカシアは、厚めの皮が一枚でくるりと丸まった形で、香りも力強めとされています。
私たちがスーパーで手にするのは、カシア系のものが多いようです。
同じ「シナモン」の名前でも、巻き方を見れば、どちらの顔かが少し見えてくるわけです。

↑セイロンシナモン

↑カシアシナモン
皮一枚が、遠い土地で謎に包まれていた話
ここで、少しだけ時計の針を戻してみます。
シナモンは、古くから世界で珍重された高価な香料でした。
あまりに貴重だったため、産地を握る商人たちは、その出どころをわざと謎に包んでいたと伝わっています。
一説には、「巨大な鳥が、遠い土地から巣の材料に運んでくる」といった作り話まで語られたのだとか。
実際には、木を切りつめ、皮をはいで、乾かしただけのもの。
それが神秘のベールをまとって遠くまで運ばれ、高値で取引されていたのです。
香りの正体を隠したかった商人たちの気持ちも、分からなくはありません。
──だって、正体は木の皮ですから。

まとめ|シナモンの木は、皮で香る木だった
シナモンの木を辿ってきて、冒頭の「木の実か何かだろう」は、気持ちよく外れました。
・使うのは実でも種でもなく、木の皮。スティックは皮が乾いて丸まった姿
・木そのものはクスノキの親戚で、香りの強い一族
・セイロンとカシアの二つの顔があり、巻き方でも見分けられる
・産地を隠すために、鳥の伝説まで作られたほどの香料だった
次にシナモンスティックを手に取ったら、端の断面をのぞいてみてください。
薄い皮が幾重にも巻かれているか、厚い皮が一枚でくるりと巻いているか。
その巻きの中に、遠い土地に立つ一本の木が隠れています。
おまけ|“ほっと”一呼吸のシナモンアイテム



