
スムージーに溶かす緑の粉。棚に並ぶお茶のパッケージ。サプリの瓶。
粉末より手軽で、味が濃すぎない。まず試すならこれ
スーパーフード「モリンガ」の文字をよく見かけるようになりました。
アミノ酸や、ポリフェノールやカルシウムに鉄分、、、とにかく「すごい」という話も耳にします。
ところが、その「モリンガ」がいったいどんな姿をしているのかと問われると、うまく像を結びません。
草なのか、木なのか。食べるのは実なのか、葉なのか。
粉やカプセルの姿はすぐ浮かぶのに、もとの姿だけが、ぽっかり抜け落ちている。
今回は、最近話題の「モリンガ」が、そもそも何ものなのかを辿ってみようと思います。
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モリンガは木の名称
答えから言ってしまえば、モリンガは「木」です。
ワサビノキ科ワサビノキ属に分類される植物で、私たちが手にする緑の粉は、この木の葉を乾かして細かく砕いたものだったのです。
故郷は、インド北西部のヒマラヤ山脈の南のふもと。
高い山を背にした、乾いた土地の木でした。
性分としては、とにかく生長が速く、旱魃(かんばつ)にも強い。
成木ともなると、高さは10〜12メートルほどにまで伸びるといわれます。
ビルの3階か4階を見上げるくらいの背丈です。
瓶に詰まった粉からは想像しづらいですが、もとは水の少ない土地でぐんぐん育つ、たくましい木なのですね。

↑モリンガの葉っぱ
和名は「ワサビノキ」|根がワサビの辛味
このモリンガ、日本語のちゃんとした名前も持っています。
その名も「ワサビノキ」。
ずいぶん所帯じみた名前だな、と思われるかもしれません。
由来は、根の味にあります。
この木の根が、ワサビのようなツンとした辛味を持っているのです。
遠いヒマラヤ生まれの“奇跡の木”が、日本では台所の薬味にちなんで名づけられている。
その落差も、なんだか可笑しいものです。

↑葉を採るために何度も切り戻されたモリンガ。切り戻すと根元が太く、こぶ状になり、そこから細い枝が何本も吹きます
名前は「捻(ね)じれた莢」から来ていた
そもそも「モリンガ」という響き、どこか異国の言葉のように聞こえます。
それもそのはず、この名前ははるばるインドから来ています。
属名のモリンガ(Moringa)は、南インドで話されるタミル語の「ムルンガイ」に由来するとされます。
意味は、「捻じれた莢(さや)」。
この木は、細長くて少しねじれたような莢(さや)を実らせます。
その姿が、そのまま名前になったというわけです。

英語では「太鼓のばちの木」|莢は南インドの食卓の野菜
面白いのは、英語での呼び名です。
モリンガは、英語で drumstick tree(ドラムスティックツリー)と呼ばれます。
直訳すれば「太鼓のばちの木」。
この細長い莢(さや)を、太鼓を叩くばちに見立てたのですね。
そしてこの莢(さや)、ただ名前の由来になっただけではありません。
南インドでは、莢(さや)を「サンバル」という豆と野菜の煮込みに入れて食べる、ごくありふれた食材なのだそうです。
遠い土地の人々にとって、モリンガは“奇跡の木”である前に、まず日々の食卓に上る身近な野菜だったのですね。
ここで、名前を整理しておきます。
・学名:モリンガ・オレイフェラ(Moringa oleifera)
・和名:ワサビノキ
・英名:ドラムスティックツリー(太鼓のばちの木)
・通称:奇跡の木(ミラクルツリー)

↑モリンガ畑
なぜ「奇跡の木」と呼ばれるのか
ここまでは、乾いた土地で速く育つ、ごく普通の木の話でした。
では、なぜモリンガは「奇跡の木(miracle tree)」などと大げさに呼ばれるのでしょう。
理由は、栄養だけの話ではありません。
この木が、遠い土地で実際に人の暮らしを支えてきた、という背景があるのです。
種で、にごった水がきれいになる
まず驚くのが、種の使い道です。
モリンガの種からは、油がとれます。
学名の後半、オレイフェラは「油を持つ」という意味で、名前の半分は、この種の油のことでした。
この油を搾った後のモリンガの種を砕いて水に入れると、水のなかの細かな濁りを、底へ沈める働きがあるといわれます。
搾ったあとの種には、汚れの粒子を引き寄せるタンパク質が含まれているのだそうです。
そのため、きれいな水が手に入りにくい土地では、この種が飲み水を澄ませるために使われてきました。
もちろん、これであらゆる水が安全になるわけではありません。
それでも、木の種ひとつが暮らしの道具になっている、というのは面白い話です。

↑モリンガの種
セネガルの「ネブデイ」|命を支えた木
栄養についても、少しだけ。
モリンガの普及資料などでは、乾燥させた葉のカルシウムは牛乳の17倍、鉄はほうれん草の25倍にもなる、といった数字がしばしば掲げられます。
数字だけ聞くと、いかにも謳い文句めいて聞こえるかもしれません。
けれど、この木の力を物語る、忘れがたい報告があります。
西アフリカのセネガルでの話です。
支援団体チャーチ・ワールド・サービスの西アフリカ代表を務めたローウェル・フグリー氏が伝えたもので、現地ではモリンガは「ネブデイ」と呼ばれています。
栄養不足に悩んでいた母親たちが、この葉の粉を食べるようになったところ、母乳が出るようになり、やせ細っていた赤ちゃんが育っていったというのです。
ある母親は、こう語ったと記録されています。
「ネブデイのおかげ。食べはじめたら、めまいが消えて、母乳が足りるようになったの」
現地の小児科の看護師は、こうも話しています。
「しばらくして子どもを連れて戻ってくると、見違えて分からないほどなんです」
奇跡の木という呼び名は、こうした一人ひとりの暮らしの積み重ねから生まれてきたのですね。

ただし、話を大きくしすぎないよう、冷静な声も添えておきます。
メキシコ国立自治大学の植物学者マーク・オルソン氏は、市販のモリンガのカプセルについて「きちんとした臨床試験を経ていない」と釘を刺しています。
魔法の薬ではなく、あくまで栄養に富んだ一本の木。
その線を忘れずにいたいところです。

まとめ
名前だけが先に広まっていたモリンガの正体を辿ってきました。
サプリでも粉でもなく、ヒマラヤ生まれの一本の木。
和名はワサビノキで、名前のもとは細長い「捻じれた莢」。
南インドでは食卓の野菜であり、種はにごった水を澄ませ、遠い土地では母と子の命を支えてきました。
「奇跡の木」という少し大げさな呼び名の裏には、そんな地に足のついた物語が隠れていたのです。
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