
「今日、東京地方で木枯らし1号が吹きました」
秋も深まったころ、天気予報の締めくくりに、そんな一言がふいに挟まります。
毎年のように耳にする言葉なので、「ああ、冬が来るんだな」と受け流している方も多いのではないでしょうか。
けれど、あらためて字面を見ると、なかなか穏やかではありません。
木を、枯らす。
風の名前に、ずいぶん物騒な字が当てられています。
しかも「1号」ということは、2号や3号もあるのでしょうか。
今回は、毎年聞き流してきた「木枯らし1号」を、木のメディアらしく名前の由来から辿ってみようと思います。






なぜ「木を枯らす」と書くのか|名前の由来
木枯らしは、その名のとおり、木に関わる風です。
とはいえ、風が直接、木を枯らして殺してしまうわけではありません。
手がかりは、「木の葉落とし」という別名のほうにあります。
晩秋から初冬にかけて吹く冷たい北風が、色づいた葉を次々と吹き落としていく。
葉をすっかり落とされた木は、まるで枯れてしまったかのような姿になります。
その、枯木のように見せる働きから「木枯らし」と呼ばれるようになった、というのが定説とされています。
「木嵐(こあらし)」が変化したものだ、といった別の説もあるようですが、こちらは今ひとつ決め手に欠けるとされています。
実際に枯らすのではなく、枯れたように見せる風。
物騒に見えて、意外と正直な名前だったわけです。
(ちなみに、冬に葉を落とす木と、落とさずに緑を保つ木があるのはなぜか。その仕組みは、落葉樹と常緑樹の違いについて別の記事にまとめています。)


「凩」という一字に込められたもの
木枯らしには、もうひとつの書き方があります。
「凩」という一字です。
“風がまえ”の中に、木が一本おさまっている形。
これは日本で作られた国字で、凧(たこ)などと同じ仲間だとされています。
風に囲まれた木、というかたちそのものが、木を枯らす風という意味を表しているわけです。
俳句の世界では、木枯らしは初冬の季語。
そこでは、この「凩」の字が好んで使われるといいます。
たった一字に、季節と情景をまとめて畳み込んでしまう。漢字というのは、なかなか達者なものですね。

気象庁がいう「木枯らし1号」の正体|発表の基準
では、ニュースで流れる「木枯らし1号」は、誰がどう決めているのでしょうか。
これを認定しているのは、気象庁です。
ただ、意外なことに、木枯らし1号を発表しているのは全国どこでも、ではありません。
東京地方と、近畿地方。この二つの地域だけなのです。
木枯らしはおもに太平洋側で吹く風で、発表してほしいという声が多かったのが、この2地域だったといわれています。
基準も、きちんと決められています。
東京地方の場合、10月半ばから11月末までのあいだに、西高東低のいわゆる冬型の気圧配置になり、西北西から北向きの、最大風速8メートル以上の風が吹くこと。
その年に初めてこの条件を満たした風が、「木枯らし1号」です。
近畿地方は少し幅が違い、霜降(10月下旬ごろ)から冬至までを対象にしています。
全国ニュースのように聞こえて、じつは東と西の二か所で見守られている風だったわけですね。

「2号」はなぜ聞かないのか
ところで、「1号」と名がつくのに、木枯らし2号や3号は耳にしません。
これは、2号にあたる風が吹かないから、というわけではないようです。
2号以降が吹いたとしても、1号ほど注目されないため、そもそも発表されないのだとされています。
名前をもらえるのは、初物だけ。
初雪や初鰹と同じで、冬を告げる「最初の一吹き」であることに、意味があるのでしょう。
木を枯らす名前なのに、吹かない年もある
ここまで来ると、ひとつ可笑しな話があります。
木を枯らすと書くほどの風なのに、その木枯らし1号が、一度も吹かずに終わる年があるのです。
東京地方では、2018年に木枯らし1号の発表がありませんでした。
発表なしは、じつに39年ぶり。前回にさかのぼると、1979年の計算になります。
しかもその後、2018年と2019年、2021年と2022年というように、記録のない年が続いたこともありました。
基準のどれかがわずかに足りないと、あの物々しい名前は、その年は出番を失ってしまうのですね。

記録を見ると、東京でいちばん早い木枯らし1号は10月13日、いちばん遅いのは11月28日(1951年から2018年までの記録)。
ひと月半ほどの幅の中で、その年の冬は顔をのぞかせます。
近畿地方の記録では、最も早くて10月25日、最も遅くて12月19日(1980年から2018年まで)。東よりも、少し遅くまで待つ年があるようです。
ちなみに直近の2025年は、11月3日に東京で発表されました。
前の年より4日早く、近畿地方とは同じ日。都心では、瞬間の風速が17.7メートルに達したそうです。
春を告げる風との、対の関係
木枯らし1号には、季節をはさんで向き合う相手がいます。
春の初めに吹く、「春一番」です。
冬の入り口を告げるのが木枯らし1号なら、冬の出口を告げるのが春一番。
寒い季節を両側から挟む、門番のような二つの風だといえます。

まとめ
木枯らし1号を辿ってみると、聞き慣れた言葉の中に、いくつもの横顔がありました。
・「木を枯らす」は、葉を落として枯木のように見せる、という意味
・「凩」は、風の中に木を閉じ込めた、日本生まれの国字
・気象庁が発表するのは、東京と近畿の二か所だけ
・木を枯らす名前なのに、一度も吹かない年もある
今年の秋、天気予報でまたあの一言が流れたら、窓の外の木を一度、見上げてみてください。
葉を落としながら、冬をつれてくる風のお通りです。


