
試験管や瓶を洗う、あの細長いブラシ。
それが真っ赤に色づいて、枝からぶら下がっている。
街路樹や公園でこの花を見かけて、名前が「ブラシの木」だと知った方は多いのではないでしょうか。
見た目そのままの、覚えやすい名前です。
でも、その名前から先「本当は何の木で、どこから来たのか」となると、とたんに言葉につまります。
今回は、そんなブラシの木の正体を、少し追いかけてみようかと思います。






正体は、オーストラリアからきた木
まずは、あの木の素性から。
ブラシの木は、園芸の世界ではカリステモンの名でも知られています。
生まれ故郷は、はるか南のオーストラリア。
日本にもともと生えていた木ではなく、観賞用として海を渡ってきた外来の木です。
分類でいうと、フトモモ科の一員。
この科には、香りで知られるユーカリやティーツリーが名を連ねています。
どちらもオーストラリア生まれで、葉に精油をたくわえた香りの強い一族です。
ブラシの木の葉も、もむとかすかに香るといわれます。
日本では、初夏のころに赤い花をつける庭木や街路樹として親しまれています。
ちなみに、「金宝樹(キンポウジュ)」という和名でも呼ばれます。
枝いっぱいの赤い花を、宝物に見立てたのでしょうか。
赤いブラシの華やかさばかりが目立ちますが、血筋をたどれば、香り高い名門の親戚だったわけです。

赤いブラシの毛は、花びらではなかった
ここが、この木のいちばん面白いところです。
あのブラシの毛のような赤い一本一本、じつは花びらではありません。
正体は、雄しべ(おしべ)です。
ふつうの花なら、色づいた花びらが主役で、雄しべはその内側にひっそり控えています。
ところがブラシの木は、その役割が逆さま。
花びらは小さく地味で、しかも開くとすぐに落ちてしまうのだそうです。
代わりに、細長い雄しべが、小さな花ひとつにつき数十本。それが何十もの花から飛び出して、あの赤をつくっているのです。

↑ブラシの花の芽
一本の枝に小さな花がびっしり集まり、それぞれが雄しべを突き出す。
その集まりが、まとめて瓶洗いブラシに見えているわけですね。
よく見ると、赤い毛の先には、ごく小さな黄色い粒がついています。
これが花粉をおさめた葯(やく)で、細い雄しべの本当の先端にあたります。
赤い軸に黄色い点。
あのブラシは、意外と手の込んだつくりをしているのです。

↑おしべの芽吹き
名前の由来|和名は見た目、学名は「美しい雄しべ」
名前の由来は、見てのとおり。
あの形が、まさにブラシそのものだったからです。
面白いのは、学名のほうもここに通じていること。
カリステモンとは、ギリシャ語で「美しい雄しべ」という意味だとされています。
赤いのは雄しべ——
呼び名も、学名も、じつは同じ一点を指していたのですね。
山火事とともに生きる木
もうひとつ、故郷ならではの生き方をのぞいてみます。
オーストラリアは、山火事の多い土地として知られます。
ブラシの木は、その火をむしろ味方につけて子孫を残す木だとされています。
花が咲いたあと、枝には木質のかたい実がつきます。
この実、種が熟しても口を閉じたまま、長いものでは7〜8年も枝に残り続けるのだそうです。

↑ブラシの木の実|元々花がついていた場所が実になる
そして山火事の熱にあぶられると、ぱかりと開いて、中の種をまくといわれています。
親木が焼けても、灰になった大地に種が落ち、次の世代が芽吹く。
火事を災いではなく、まき時として使っているわけです。
焼けたあとの地面は、ほかの草木が減って日当たりがよく、灰は養分にもなるといわれます。
ライバルの少ないその一瞬をねらって芽を出す——なかなか抜け目のない段取りですね。
花のすぐ先から枝がまた伸び、かたい実が幹沿いに数珠つなぎに残る独特の姿も、この生き方の名残でしょう。
では、火事が来なかったら、種は一生出られないのでしょうか。
どうやら、そうでもないようです。
実が口を開く合図は、火そのものというより、実を支えている枝が死んで乾くこと。
火事でなくても、枝が枯れたり折れたりすれば、実は乾いて種をこぼすとされています。
火事は、そのいちばん派手なきっかけ、というわけです。
ちなみに、この「火を待つ」やり方は、ブラシの木だけの発明ではありません。
同じオーストラリアのバンクシアやユーカリの仲間、遠く北米のマツにも、火で実や松かさを開くものがあります。
火事の多い土地で、別々の木が同じ答えにたどり着いた、ということなのでしょう。
穏やかな庭木の顔の裏に、ずいぶんたくましい算段を隠していたのですね。

↑オーストラリアの山火事で焦げた木たち
ブラシの木の花言葉
最後に、花言葉にも触れておきます。
ブラシの木の花言葉としては、「はかない恋」「恋の炎」「気取る心」といった言葉が紹介されることが多いようです。
「恋の炎」は、あの燃えるような赤から。
これは見たままですね。
「はかない恋」のほうは、由来がはっきりしません。
もしかしたら、燃え上がった炎は、いつか消えるもの——そんな連想なのかもしれません。
ちょっと意外なのが「気取る心」。
これは、身だしなみを整えるブラシの姿から連想された言葉だといわれています。
花の名前のもとになった道具が、そのまま花言葉にも顔を出しているわけです。
それにしても、同じ花でも、眺める角度でずいぶん違う言葉が生まれるものですね。
あの赤い花を前にした人それぞれの感じ方が、そのまま言葉になったのかもしれません。

まとめ
街路樹で見かけるあの赤いブラシは、オーストラリアからきたカリステモンという木でした。
毛のように見えた赤い一本一本は、花びらではなく雄しべ。
学名まで「美しい雄しべ」と名づけられた、雄しべが主役の花だったのですね。
また、故郷では山火事さえ味方につけて種をまく、たくましい一面も持っていたのです。
次にあの赤いブラシに出会ったら、少し近づいて、数えきれないほどの、赤い雄しべたちを見て、これらの話を思い出していただけたら幸いです。


