
旅番組やSNSで、ふと目に飛び込んでくるマダガスカルの「バオバブの並木道」。
巨人のようなバオバブが両サイドにならぶ、まさに木の神殿のようなイメージです。
それを見て「いつか本物を見てみたい」と胸をときめかせたことがある方は、きっと多いはず。
しかし、あんなにユニークな形をした木が、一体どんな風に生きているのか。その正体については、意外と知らないことが多いのではないでしょうか。
今回は、そんなバオバブの特徴から、歴史さらにはその伝説まで色々と紐解いてみたいと思います。
バオバブの木とマダガスカルの絶景の秘密

↑バオバブ街道/グランディディエバオバブ (Adansonia grandidieri)
バオバブの聖地といえば、アフリカの島国・マダガスカルです。
特にムルンダヴァという町にある「バオバブの並木道」は、世界中の旅人が憧れる場所。
この巨大な木々が道に沿って整然と並ぶ景色の映像や写真を見たことがある方も多いのではないでしょうか。
でも、ここでひとつ意外な事実。 この並木道は、最初からあの姿を狙って作られたわけではありません。
かつてあの場所は、バオバブだけでなく多種多様な木々がうっそうと茂る、広大な森でした。
しかし、長い年月の中で開拓が進み、周囲の木々が伐採されていったのです。
その中で、木々の神聖さ、そして「重すぎるため伐採が困難だった」という現実的な理由も相まって、バオバブだけが残されたのでした。
(ちなみに、同じマダガスカル生まれで、名前に面白い言い伝えを持つ木に「旅人の木」があります。コバルトブルーの種と名前の由来については、旅人の木の記事で紹介しています)


↑樽型バオバブ/フォニーバオバブ (Adansonia rubrostipa) バオバブは世界で8種あると言われている
バオバブの木の「規格外」な特徴|過酷な乾燥を生き抜く体のひみつ
バオバブは大きなものになると、高さは20メートルを超え、最大級の個体では30メートル近くに達することもあります。
その姿は、10階建てのビルを見上げる感覚。
そして注目すべきは高さだけでなく“幹の太さ”もです。
そこには、生きるための切実な知恵が詰まっているのです。

巨大な天然の水筒|バオバブの驚異的な貯水力
バオバブ(アオイ科アダンソニア属)が自生するのは、雨の降らない期間が長く続く、過酷なサバンナ地帯。
そこでバオバブが選んだ生存戦略は、自分の体を「巨大な貯水タンク」に変えることでした。
大きなバオバブの木になると、幹の中に10万リットルを超える水を蓄えることもあると報告されています。
これは50メートルプールの約10分の1に相当する量。
その驚くほどの水分を巨体の中に蓄え、乾季をのりきっていたのです。

年輪のないバオバブ|悠久の時を刻む「千年の長寿」
こんな巨大な木をみると、その樹齢を知りたくなるのも人情です。
つまり木の年齢である年輪をチェックしてみたくもなりますね。
しかし、水分を多く含み、スポンジのように柔らかい組織を持つバオバブには、はっきりとした年輪がほとんど現れないそうです。
そのため、正確な年齢を測るには特殊な炭素測定が必要になります。
その結果は、私たちの想像や期待を裏切らず、やはり個体によっては樹齢1000年を超える年齢が推定された例も多いようです。
夜にだけ咲くバオバブの花|コウモリが運ぶ生命の営み
バオバブの生態で意外と知られていないのが、その「花」です。
大きな白い花を咲かせるのですが、その開花は夜のわずかな時間だけ。
この神秘的な花を訪れるのは、果実食コウモリなどの夜行性動物です。
暗闇のなかで動物たちが蜜を求めてやってくることで、受粉が行われる。
バオバブの周辺には、夜にしか見られない特別な営みが広がっているのです。

↑バオバブの花
バオバブの木の言い伝え|逆さまの木と『星の王子さま』での恐ろしい顔
こんな神秘的な巨木には、当然“物語”もついてきます。
まずは、ちょっと文句の多いバオバブの物語です。
神様が逆さまに突き刺した?|バオバブの木にまつわる言い伝え
世界が作られたとき、神様はバオバブを川のそばに植えたそうです。
しかしバオバブは「もっと涼しい場所がいい」と、恐れ多くも文句を垂れたとか。
神様はそれを聞いて、別の場所へ植え替えてあげたのです。
それでもなんとバオバブは不満を止めなかった。
ついに堪忍袋の緒が切れてしまった神様は、バオバブを引き抜いて、逆さまに地面に突き刺してしまった。
こんな物語です。
あの根っこのように見える枝先は、神様の怒りをかったから、というわけのようです。

『星の王子さま』での恐ろしい顔
そして、バオバブは『星の王子さま』にも顔を出します。
『星の王子さま』の中では、バオバブは「放置しておくと星を突き破って壊してしまう恐ろしい植物」として描かれています。
あの物語を読んで、バオバブに少し怖いイメージを抱いた方もいるかもしれません。
こちらでは“文句を垂れる存在”というよりは、その巨大さのもつ“威圧的な存在”としての登場ですね。
(しかし、作者が伝えたかったのは、「小さな芽のうちに摘み取らないと、取り返しのつかないことになる」という、人間の心にある怠慢や、社会に対する警鐘であったという解釈が一般的です)
少し話は変わりますが、実際のバオバブも、あまりに古い個体になると、内部の空洞化が進み、ある時期に突然倒壊して消えてしまうことがあるそうです。
そのあまりにダイナミックな最期も、どこか神秘的なイメージを加速させているのかもしれませんね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
神様に喧嘩をふっかけ、逆さまに突き刺されたというその態度(伝説ですが)。
千年という途方もない時間軸で生き、 十万リットルもの水をその体に蓄える圧倒的な力。
見た目も規格外ならば、その裏に流れるストーリーも規格外だったのです。
そんなバオバブ、実は人びとの暮らしをまるごと支える「生命の木」という顔も持っているのですが、それはまた別のお話で。




