
キュッ、ポンッ。
ワインを開けると、手のひらに残るのはあの軽い栓。
指でつまむと、ほんのり弾んで、水にも強そうな、茶色いあれです。
「コルク」といって、どうやら木からできているらしい。
でも「コルクの木」なんてものがあるのか、それとも何かを加工したもので、木だとすればどこの部分なのか。
今回は、手のひらのコルクが何から、どうやって生まれているのか、その正体を確かめにいきます。






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コルクの正体は、「コルクガシ」という木の皮
答えから言うと、コルクは木の皮です。
コルクガシ。地中海沿岸に育つ、常緑の樫(オーク)の仲間です。
(このオークという木そのものについては、家具材としての顔をチークやウォールナットと並べて見ています)

実でもなければ、幹の芯でもない。幹をおおっている分厚い皮の層、そこを剥いで、丸く打ち抜いたものが、ワインの栓でした。
「コルクの木」という言い方は、まちがいではありませんが、正しくはコルクガシという木があって、その皮のことを私たちはコルクと呼んでいる、というわけです。
そして面白いのは、この皮が、木の生きているあいだに何度も剥がれるということです。

あんなにしっかりとしたカタチのものが皮ってのはびっくりしたぞ。



確かにナ。相当な厚みの皮膚が必要ダ。


皮を剥いでも、木は枯れない
ふつうの木は、幹の皮をぐるりと剥ぐと、弱って枯れてしまいます。
ところがコルクガシは枯れません。それどころか、剥がれた跡に、また新しい皮を育てます。
この木のいちばん不思議なところです。
剥ぐのは、いちばん外側だけ
からくりは、剥ぐ場所にあります。
剥ぎ取るのは、幹の表面をおおう外側のコルク層だけ。その内側にある、木が生きていくための組織までは傷つけません。
上着を一枚脱がせるようなもので、中の体には刃を入れません。
だから木は枯れず、それどころか、剥がれた跡には、約9年をかけて新しい皮がまた育ってきます。
伐り倒して材をとる木とは、そこがまるで違います。コルクガシは、立ったまま、何度も皮を採らせてくれる木なのです。


↑コルクガシのプランテーション
9年待って、三度目からが本番
とはいえ、剥げばすぐ良いコルクが採れる、という話でもありません。
植えてから最初に皮を剥くまでに、およそ20〜30年。ようやく一度目を迎えます。
ところが、この一度目に採れる皮(バージンコルクと呼ばれます)は、表面がごつごつと硬く、ワインの栓には使えません。
ワインの栓にはなれない、一度目のごつごつした皮もテラリウムの主役に。
二度目もまだ。栓にできるほど均一で上質な皮がとれるのは、三度目以降なのです。
一度剥いだら、次まで約9年。三度目までとなると、植えてから数十年の年月がかかります。
つまり、栓ひとつの裏には、何十年も木の皮が育つのを待った時間がある、ということになります。
その木は200年ほど生きるとされ、一生のうちに十数回ほど、皮を採られるといわれています。
こうしたコルクガシの林の、約半分はポルトガルにあります。
モンタードと呼ばれる林が約73万ヘクタール広がり、コルクガシは法律で守られていて、許可なく伐ることは禁じられています。



栓になるまで、何十年も待つのか!?



気の長い話ダナ。栓ひとつにも年季が入っているってことカ。


なぜ、あんなに軽くて栓にぴったりなのか
ここで、栓の話に戻ります。
木の皮が、なぜあんなに軽くて、押すと弾んで、瓶の口にぴったりはまるのでしょう。
理由は、皮の中身にあります。
中身は、空気の入った死んだ細胞
コルクを顕微鏡でのぞくと、小さな部屋がびっしりと並んでいます。
その数、1立方センチあたり約4000万個。
一つひとつの部屋は、すでに役目を終えた死んだ細胞で、中は空気とほとんど同じ気体で満たされています。
言ってみれば、空気を抱えた小さな袋が、すき間なく積み重なっている状態です。
だから、あんなに軽い。
比重は0.2前後。水に浮くほど軽い天然の素材です。持ったときに妙に軽いのは、中身のほとんどが空気だからです。
弾力の理由も同じです。空気の入った部屋の集まりだから、押せばつぶれ、力をゆるめればまた戻る。瓶の口に押し込めば、縮んで隅々まで密着します。


密閉しながら、少しだけ呼吸する
軽くて弾む。
しかしそれだけでは、栓にはなりません。
中身が漏れたり、空気が入り放題では困ります。
ここで効いてくるのが、細胞の壁です。コルクの細胞壁には、スベリンという成分がたっぷり含まれています。
この壁のおかげで、コルクは水もほとんど通しません。
弾力で瓶口にぴたりとはまり、壁で中身を守る。栓として、これ以上ない組み合わせです。
17世紀にガラス瓶が広まると、このコルクが栓の主役になりました。
そのうえで、コルクはほんのわずかに空気を通すともいわれています。
栓をしたあともごく少しずつ空気がやりとりされ、それがワインをゆっくり育てるのに役立っている、とされます。
ぴたりと閉じながら、ほんの少しだけ息をする。コルクの栓は、そういう芸当をしています。


「細胞」という言葉は、コルクから生まれた
ところで、いまさらりと「細胞」という言葉を何度も使ってきました。
生き物のからだを形づくる、あの基本の単位です。
この言葉、そもそもコルクから生まれました。
1665年、イギリスのロバート・フックが、顕微鏡でコルクの薄片をのぞきました。
そこに見えたのは、小さな箱がぎっしり並んだ姿でした。フックはそれを蜂の巣にたとえ、一つひとつを cell(セル)、小部屋と呼びました。1立方インチに12億個以上ある、と自分で数えてもいます。
これが、細胞という言葉のはじまりです。



「細胞」って言葉、コルクが始まりだったのすごくない?



ミクロの世界を覗く言葉が、コルクスタートだったとはナ。



それにしてもよくそんなピタリなものを昔の人間は選び抜いたもんダ。



他にもいろいろな代替品があって、ようやく辿り着いたんだろうね。
まとめ
ワインの栓ひとつを、端から辿ってきました。
正体は、コルクガシという木の皮。その皮は、剥いでも木を枯らさず、約9年かけてまた育つ。
良い栓がとれるのは三度目から。小さな栓の裏には、植えてから数十年を待った時間があります。
軽くて弾むのは、中身が空気を抱えた死んだ細胞の集まりだから。しかもその「細胞」という言葉は、もとはといえばコルクから生まれたものだったのです。
次にワインの栓を抜いたら、それが地中海の木から何十年もかけて採られた一枚の皮だということを、思い出してみてください。














