
夏のうだるような暑さが少しずつ日常に馴染んでくる頃。
スーパーや花屋の店先に、色鮮やかな赤い実が並び始めます。
お盆の時期になるとよく見かける「ほおずき」です。
「そういえば、なんでお盆にこれを飾るの?宗教的な意味合いもありそうだけど、それはどんな理由なの?」
そう思われる方も多いのではないでしょうか。
実はあの不思議な形をした植物には、ご先祖様をお迎えするための、ちょっとした思いやりが込められています。
今回は、お盆と「ほおずき」の関係について、その意味や歴史を紐解いてみようかと思います。
なぜお盆に飾るの?
ほおずきが持つ意味を知るために、まずはこの植物の少し不思議な生態からお話しします。
そもそも、ほおずきとは?|自然が作った「赤い提灯」

↑ホオズキ
まずは写真のほおずきを見てください。
不思議な形をしていますよね。
「いったいこれは実なのか花なのか?」
そんなことを思うかもしれませんが、実は、この赤くてふっくらとした袋状の部分は、実でも花でもありません。
ほおずきはナス科の植物です。
ちょっとナスやミニトマトを想像してみてください。
それぞれの、実の根元についている、星型のパーツがありますよね。
これを「ガク」と呼びますが、ほおずきの赤い袋は「ガク」が大きく成長したものなのです。
初夏に小さな白い花を咲かせたあと、花を根元で支えていた「ガク」が大きく発達し、中の果実を包み込むように膨らんでいき、この姿になるのです。

ご先祖様が迷わず帰るための「目印」
そんなほおずきは、まるで薄い紙を張った提灯の中で、ろうそくの火が灯っているよう。
この「提灯のような形」こそが、お盆にほおずきを飾る最大の理由です。
お盆は、ご先祖様の霊が私たちの住む世界へ帰ってくる期間。
しかし、久しぶりに帰ってくる道のりは、暗くて迷いやすいものです。
そこで、迷わずに家までたどり着けるようにと、昔の人は目印として「盆提灯」を飾ったり、「迎え火」と呼ばれる火を焚いたりしました。
そして、提灯に見立てたほおずきをお供えすることで、ご先祖様の足元を照らす灯りにしようと考えたのです。

漢字で「鬼灯」と書く、その温かい理由
この役割は、ほおずきの漢字表記にもよく表れています。
ほおずきは漢字で「鬼灯」と書きます。
少し怖い字面に見えるかもしれませんが、ここでの「鬼」は妖怪ではなく、亡くなった人の魂や霊を意味する言葉。
つまり、鬼灯とは「死者の魂を導く灯り」という文字通りの意味を持つわけです。
昔の人があの赤い植物にどんな役割を託したのかが、この二文字にも凝縮されている気がしますね。
名前の由来から江戸の文化まで|ほおずきの雑学
ご先祖様を導く灯りとして大切にされてきたほおずきですが、実はその存在は、“それ以外”の日本の生活文化とも深く結びついてきました。
少しだけ時計の針を戻して、ほおずきにまつわる歴史を覗いてみましょう。
ほおずきの名前の由来
ほおずきというとなんだか“かわいらしい響き”。
この名前に、いくつかの由来があると言われています。
有名なのは、昔の子供たちの遊びからきているという説。
どんな遊びかというと、ちょっとした音遊びです。
赤い実を指でよく揉んで柔らかくし、中身の種をそっくり抜き取ります。
空っぽになった小さな風船のような皮を口に含み、草笛のように音を鳴らします。
この際にほおをぷくっと膨らませるわけです。
ここで「頬を突く」から「ほおずき」。
令和が忘れ去ったような微笑ましい情景です。

またこれ以外にも、名前の由来についてさまざまな説があります。
火のように赤く染まるその姿から「火照り(ほてり)」が変化した
赤い実の様子を染まった頬に見立てた「頬つき(顔つき)」からきた
この植物によく集まる「ホホ」というカメムシの一種が好むことから、「ホホ好き」が転じた
全部正しいような、しかし全部どこか胡散臭いような気もしますが、いずれにせよ、人々の生活のすぐそばにこの植物があったことは間違いなさそうです。
江戸の夏の風物詩「ほおずき市」のひみつ
東京の浅草寺で毎年夏に開かれる「ほおずき市」をご存知でしょうか。
境内いっぱいに風鈴の音とほおずきの赤が広がる、江戸時代から続く夏の風物詩です。
この市が開かれる日は「四万六千日」と呼ばれています。
この日にお参りすると、なんと4万6000日分、つまり約126年分ものお参りをしたのと同じご利益があると言われています。
一生分の功徳が一日で得られるという、まぁなんとも、江戸っ子らしい豪胆な発想です。
では、なぜそこでほおずきが売られるようになったのでしょうか。

ほおずきは薬として使われていた?
実は、ほおずきは観賞用としてだけでなく、古い時代には民間療法として珍重されていた歴史があるようです。
根っこなどを煎じて飲むと、大人は胸のつかえが取れ、子供は虫封じになるという信仰がありました。
そのため、ご利益のある縁日で、薬草としての役割も期待されて売られるようになったと言われています。
しかし、ここでひとつ注意しておきたいことがあります。
ほおずきの根や茎には、実際には毒性成分が含まれているとのこと。
そのため、現代では口にすることは推奨されていません。
食用の品種も一部あるみたいですが、お盆用や観賞用として売られているものは、あくまで目で見て楽しむためのもの、くらいに捉えておいた方がいいでしょう。
ほおずきはどこに飾るのが正解?宗派や地域による違い
では、ほおずきはどのように飾ればよいのでしょうか。
実は、お盆のほおずきに全国共通の飾り方があるわけではありません。
一般的には、ご先祖様を迎えるための「精霊棚(盆棚)」や、お仏壇の周りなどに飾られます。
その時には、仏花と一緒に花瓶へ生けたり、お供え物のそばに添えたり、枝付きのほおずきを精霊棚の上から吊るしたりするのが、よく見られる飾り方です。
ただ地域や家庭によっては、もっとシンプルに実だけを器に盛ったり、玄関や窓辺に飾ったりすることも多いようです。

浄土真宗では「帰り道の目印」を必要としない
そして面白いのは、ほおずきや盆提灯に込める意味は、宗派によっても異なることです。
たとえば浄土真宗では、亡くなった方は阿弥陀仏の本願によって浄土に往生し、仏となると考えられています。
つまり、「お盆になるとご先祖様の霊が家へ帰ってくる」とは捉えません。
迎え火や送り火を焚いたり、ご先祖様の帰り道の目印として精霊棚や盆提灯、ほおずきを用意したりする習慣も、基本的には必要ないとされています。
ただし、ほおずきを飾ること自体が禁じられているわけではありません。
季節の花として仏前に供えたり、夏らしい彩りとして飾ったりするご家庭もあります。
このように、ほおずきは、飾り方だけでなく、そこに込められる意味も、地域や宗派、家庭によってさまざまです。
どうやら、ひとつの正解を探すというよりも、「色々なカタチがあるのだ」と、少しおおらかに捉えておくのがよさそうです。
お盆が終わったあとのほおずきはどうする?
さて、それでは、お盆が終わった後、ほおずきは“どうすれば”良いのでしょうか。
ご先祖様を迎えるために飾ったものを、そのままゴミ箱へ入れることに抵抗を感じるのが人情というもの。
そこで、かつてはお盆を終えたほおずきや盆飾りを川へ流したり、土に埋めたり、お寺でお焚き上げしてもらったりすることが一般的だったようです。
しかし現在は、環境への配慮や地域のルールから、川へ流したり、公共の場所に埋めたりすることは難しいでしょう。
そのため、今では通常の自治体のごみ分別ルールに従って処分するのが、もっとも現実的な片付け方です。
ただし、先にもお伝えしたように「ゴミ箱へポン」はどうにも心が落ち着かない。
そんなときは、新聞紙や白い紙の上に塩を少量振り、ほおずきを包み、感謝の気持ちを込めて手放す方法が良いとされています。

乾燥させて飾り続けることもできる
しかし、状態のよいほおずきは、すぐに処分せず、ドライフラワーとすることも可能。
葉を取り除き、風通しのよい日陰に吊るして乾燥させると、赤やオレンジ色の実を秋頃まで飾れます。
実の外側の袋を水につけ、葉脈だけを残す「透かしほおずき」にするという方法もありますよ。

まとめ
ほおずきのお話、いかがだったでしょうか。
時代が新しくなっていく時こそ、こういった“昔の匂い”がするものをあえて取り入れてみる──
そういうのも、日本ならではの季節エンタメとして、楽しみのひとつにできるのではないでしょうか。
それでは、今年もまた、良いお盆をお過ごしください。



