夏の歩道で、ピンクのもこもこを枝いっぱいに咲かせている木、サルスベリ。
幹に手をあてると、妙にすべすべしていて、「猿も滑るからサルスベリなんでしょ」くらいの話も、どこかで耳にした覚えがあったりします。
今回はそんなサルスベリが、どういう顔をした、どういう性質の木なのかをのぞいてみようかと思います。

まずは、どういう木なのか
ざっくりした素性から見ておきます。
サルスベリは、中国南部がふるさとの落葉樹。ミソハギ科という、庭木ではあまり聞かない科に属します。高さは3〜10メートルほど。街路樹にちょうどいい、ほどほどの大きさに育ちます。
日本へは江戸時代より前に渡ってきたといわれ、古くはお寺の庭に植えられ、今は街路樹や庭木としてすっかりおなじみになりました。
(道ばたのこの一本が、実は日かげづくりから空気の掃除までいくつもの役をこなしているという話は 街路樹が担っている“ひとり10役” にまとめています)

花は7月から9月、10月ごろまで。色は紅や濃いピンクが定番で、白や淡い紫の品種もあります。
さてそれでは気になる幹へ話を進めましょう。

道路の脇でツルツルのもこもこ見たことあるぞ!



街路樹とかでも時々見かけるよね!


すべすべの幹の正体|古い皮を脱いでいく木
サルスベリといえば、そのツルツルお肌の幹ですね。
このツルツルな表面は、それはついこのあいだ出てきたばかりの「新しい皮」。
ふつうの木は、外側にコルク質の厚い皮をまとっています。ゴツゴツ、ザラザラしたあの樹皮です。
ところがサルスベリは、この外側の皮があまり発達しません。厚みはわずか2mmほどまで。
幹が太っていくと、この薄い皮は追いつけず、所々でぺりぺりと斑にはがれ落ちていきます。そして、はがれた下から、新しいすべすべの皮が顔を出す。
服が窮屈になるたびに皮ごと着替えている、いわば脱皮する木なのです。
はがれた跡は白く残り、茶色の皮と混じってまだら模様になります。


またこの皮ですが、年がら年中はがれているわけではありません。
古い皮が落ちるのは年に一度、夏から秋にかけて。ちょうど花の季節と重なります。
そしてこの肌ざわりが、そのまま名前になりました。木登り名人の猿でも、つるんと滑ってしまいそうに見える。だから「猿滑(さるすべり)」。
もっとも、本当に猿が滑るかどうかは、疑問が残るところとされています。名前のほうが、実物より少し盛っているのかもしれません。



猿が滑ることを確かめた人はいるのかな?



そんな暇人はいないダロ。
百日紅|夏じゅう咲いて見える、ちょっとした仕掛け
このサルスベリ、面白いのは木肌だけではありません。花もです。
サルスベリは、夏から秋まで、ずいぶん長いこと咲いている印象があります。
ところが、あのもこもこを作っている一輪一輪は、咲いたその日のうちにしぼんでしまう一日花。一輪の命は、たった一日です。


では、なぜ夏じゅう咲いているように見えるのか。
秘密は、花のつき方にあります。サルスベリの花は、枝先に円錐形の大きな房になって集まり、この房のなかで蕾が少しずつ順番に開いていきます。
手前の花が一日でしぼんでも、その隣でまた別の蕾が開く。一輪ずつは短距離走でも、房ぜんたいでバトンをつなぎ続ける。だから遠目には、ずっと咲きっぱなしに見えるわけです。
江戸時代の俳人、加賀千代女がこの木をこう詠んでいます。
散れば咲き 散れば咲きして 百日紅
仕掛けの説明として、これ以上に短くて正確な言葉はないかもしれません。
この咲きぶりに、中国から来た字が「百日紅」。読んで字のごとく、百日のあいだ紅い花が咲く木、という意味です。
ちなみに俳句では、百日紅は晩夏の季語です。



ひゃくにち、、べに?100日間も花が咲いてるってことか!



そうそう、でもそれがリレー方式でそう見えてただけだったんだね。


花の中にいる、囮と本命
そして、花をもっとミクロにのぞいてみても物語があります。
一輪をのぞき込むと、雄しべが30〜40本もぎゅっと集まっています。
中心に短い雄しべがたくさんあって、頭は黄色。外側に長い雄しべが6本だけあって、頭は茶色です。
黄色いほうの花粉は、受粉の役に立ちません。
そのかわり栄養が豊かで、虫はこちらを目当てに集まってきます。
虫が夢中で食べているあいだに、長い6本の花粉が背中にくっつき、次の花へ運ばれていく。
黄色いほうは囮、本命は目立たない6本、という分業制の雄しべをもった花なのです。
花が終わると、6つに割れる丸い実がつき、翼のついた種が風に飛ばされます。



飯で釣って、花粉をつけル。まるで罠だナ。



確かにね。優しい罠だね。




「インドの」という取り違え
最後に、学名にまつわる小話をひとつ。
サルスベリの学名は Lagerstroemia indica(ラゲルストレミア・インディカ)といいます。
属名のラゲルストレミアは、植物分類の父と呼ばれるリンネが名づけたもの。
ところが、後ろの indica が曲者で、これは「インドの」という意味。
ここまで見てきたとおり、この木のふるさとは中国など東アジアで、インドではありません。
なぜそうなったのか、理由ははっきりしないまま、本当とは違う地名が学名に残ってしまったのです。



インドの木じゃないのに、インドなの!?



ふるさとを間違えられるとは、いい迷惑だナ。
まとめ
ツルツルの木肌をした、あの街路樹のサルスベリ。のぞいてみると、こんな顔が見えてきました。
- すべすべの幹は、夏に古い皮を脱いで新しくした、脱皮したての肌
- 一輪は一日でしぼむが、房のなかで咲き継いで、百日近く紅く見せる
- 花の中では、黄色い囮の雄しべと本命の6本が、虫を相手に分業している
猿も滑ると言われ、百日咲くと書かれ、インドの名まで背負わされて。名前にいくつもの物語をまとわせた、にぎやかな木です。
今度どこかでこの木を見かけたら、幹に手をあててみてください。
花の季節なら、一輪をのぞき込んで、黄色い囮と茶色い本命を探してみるのもおすすめです。














