繊維質で、しかも硬くて頑丈なはずの木が、気がつけばボロボロに。
そんな写真や映像を、どこかで見たことがあるかもしれません。
もしかしたら、自分の家のウッドデッキや庭の柵も、いつかこんなふうになるのでは?
そう思うと、少し怖くなってきます。
冷蔵庫の中の野菜やお肉じゃあるまいし、あのしっかりした木材が、どうしてあんなふうに腐ってしまうのか。
その原因は、木の細胞そのものを分解してしまう木材腐朽菌(もくざいふきゅうきん)という菌の存在にあります。

オレがふんだだけでボロボロになるのあるぞ



相当腐ってたんだね。その原因は“菌”みたい



“菌”って目に見えないダロ。対処しようがないんじゃないカ〜
なんだかやっかいそうな菌ですね。
しかしこの菌のことを少しでも知っておけば、木が腐る理由や、それを防ぐヒントが見えてくるかもしれません。
今回はそんな“木の腐り”について、考えてみたいと思います。






↑今回参照にした書籍はコチラ
木材腐朽菌とはそもそも何か
木というのは、セルロース、ヘミセルロース、リグニンといった成分が、 がっちりと組み合わさってできています。
この構造があるからこそ、木はとてもかたく、分解されにくい。
草や野菜とはちがう、いわば“植物のなかの別格”のような存在です。
しかし、そんな木の細胞壁さえも、 じわじわと壊していくものがいます。
それが、木材腐朽菌(もくざいふきゅうきん)と呼ばれる菌たちです。
表面にひっつくだけで細胞壁を分解できないカビとはちがい、 木そのもの──つまり細胞壁そのものを分解できる、 ちょっと特別な力を持っている菌たちなのです。



元気な木はオレの牙でもなかなか削れないぞ



細胞から壊していくって怖いよね



(…もくざいふきゅうきん、って言いにくい名前だナ〜)


↑白色のきのこ。これも木材腐朽菌のひとつ
木材腐朽菌に影響を与えるもの
しかし木材腐朽菌も、いつでも木の中で活動できるわけではありません。
彼らが活動するためには、“彼らのとってのちゃんとした環境” が条件となります。
つまり、その環境しだいで「木が長く持つか」「すぐに腐ってしまうか」──大きな差が生まれるのです。
ここでは、そんな木材腐朽菌が活動するための条件を、ひとつずつ見ていくことにします。
①水分(自由水)
まず、木材腐朽菌にとって一番の“スイッチ”になるのが水分です。
木材の中に水分がなければ、どれだけ栄養があっても菌は動きません。
ただし、ここでいう「水分」は、単に“木が濡れている”という意味ではありません。
木の中にある水分には、2つの種類があります。
結合水:木の細胞の壁にしっかりとくっついている水分
自由水:細胞のすき間や中にたまっている、比較的動きやすい水分


このうち、菌の活動に必要なのは「自由水」のほうです。
“自由水”が抜けきって、木の中に結合水だけが残った状態を「繊維飽和点」と呼びますが、木が腐るかどうかは「木材の含水率がこの繊維飽和点を超えているかどうか」がその境界線になるのです。



ややこしいから“濡れるか濡れないか”でいいダロ?



まぁ実際には、そういった感じになるよね。



(…水の中で生きるなんて、菌はすごいな)
しかしやっかいな点がひとつあります。
それは木材腐朽菌は、水分を自分で運んでくる力もあることです。
まわりの湿った場所から、乾いた木の中へと水を引き寄せて、その部分で腐朽を進めていくこともあるのです。
②酸素
つづいて、酸素です。
木材腐朽菌にとって、酸素は欠かせないエネルギー源のひとつ。
わずかでも空気がある場所なら、そこで活動をはじめることができます。
実際、空気中に酸素が1%でも存在すれば、腐朽は進行するといわれています。
逆に言えば、酸素がまったく届かない環境では、木材腐朽菌は活動できません。
たとえば、完全に水に沈めた状態や、土の奥深くのように空気の流れがない場所では、菌の力は封じられます。



酸素シャットダウンさせればいいみたいだよ。面白いね



そんな無理難題言うなよナ〜


③栄養(窒素)
菌たちも、生きるには “栄養” が必要です。
木材腐朽菌は、自分が代謝しやすい糖やアミノ酸などを相対的に多く含む辺材(木の外周部の部分)が大好きです。
しかし、菌も木材だけを頼りにしていると、その成長はとてもゆっくりになります。
それは、木材には木材腐朽菌に必要な栄養素のひとつ、 “窒素” がごくわずかだからです。
ところが、もし近くに土や落ち葉、すでに腐った木などがあれば、菌はそこから “窒素” や ”ミネラル” を取り込み、一気に動きはじめるのです。
木の置かれる環境に何があるか───
これも“木が腐るかどうか”の大きなカギになるのです。


↑周囲から栄養素がもらいやすい環境
④:温度
木材腐朽菌が好む温度は、菌の種類によってけっこう違いがあります。
24〜32℃くらいがちょうどいい菌もいれば、もっと低い気温で静かに動く菌や、かなりの高温に耐えてしまう菌もいます。
たとえば、0〜5℃でも生育が確認されている菌もいて、南極のような極寒の地で見つかった記録さえあります。
一方で、高温に強い菌だと、長時間なら45℃、短時間なら60〜80℃にも耐えられることもあるそうです。
だから「寒いから菌は動けないだろう」とか、「暑すぎるから菌もバテてるはず」と思っていも、実はそうでもなかったりします。



オレ、最近の夏はもうイヤだ!



それでも40度だからね。もっといけるってすごいね



“冬は腐りにくい”とかないんだナ〜
木の腐りを防ぐには
さて、木材腐朽菌の正体がすこしずつ見えてきたところで、今度はその“動きを止める方法”について考えてみます。
先ほどお話ししたように、木が腐っていくには、水・空気・栄養・温度──そんな“まわりの環境”が条件として必要でした。
ということは、そのうちのどれかを欠けさせることができれば、菌の活動はゆるやかになり、木の腐りを防ぐことができるということです。
では、それらを具体的に見ていきます。
①菌の侵入を防ぐ
まずはじめに“そもそも論”ですが、木の腐りを防ぐうえで、「菌を木の中に入れない」というのは、とても基本的で大切なことです。
たとえば、木材が直接地面や土に触れないようにする。
そして、こちらもポイント。近くにある古い腐朽材は、できるだけ取り除く。
つまり腐ってそうな木材を載せておいたりしないこと。
こうしたことでも、木材腐朽菌の侵入リスクはぐっと下がります。



つまり腐ったヤツらを近寄らせないってことダロ?



そうだけど、表現が悪いよ



オレ、腐った木踏んだけど大丈夫?
②木の水分をおさえる(含水率の管理)
木の中に“自由水”があると、腐朽菌は活動を始めます。
だからこそ、木材を(「繊維飽和点」よりも)乾燥させておくことが、まず大切でした。
でも、それだけでは不十分です。
もうひとつ大切なのが、まわりの環境を整えること。
たとえば、窓のサッシまわりを思い浮かべてみてください。
木材のそばに金属があると、結露からできた水分で、じわじわと水分が供給されてしまうこともあるのです。
つまり、「水に気をつける」とは、木材をよく乾かすことと、まわりの環境にも気を配ること。
その両方がそろって、ようやく “腐らせない体制” ができるのです。


↑サッシの結露



これ、冬によく見るヤツ!



断熱性が高いサッシだと防げるかもね



このフリー素材の写真、ただ霧吹きしただけじゃないカ〜
③酸素を断つ
酸素が送り込まれない環境では、木材腐朽菌は活動できません。
つまり “水の中” や “地中” のような場所では、 酸素がほとんど届かないため、腐朽は進みにくくなります。
とはいえ、現実的に空気を完全に遮断するのは難しいものです。
それに「水中に沈めておく」とか「土中においておく」 というのは、活用という観点から見ると「なんだかなぁ…」と思ってしまいます。



オレ、土掘って埋めておこうか?



でもそれじゃあ、せっかくの木材を使えないよね



なんだかナ〜
④菌に栄養源を与えない
木材腐朽菌は、糖やアミノ酸などの “栄養” がまわりに多いと元気になります。
だから、それらが多く含まれる辺材を避けたり、地面や腐材と接しないようにすることが大切です。
さらに(これらはあまり現実的ではないです)
木材の中にある“腐りやすい成分”を、熱で変質させてしまう「熱処理」
木の細胞の中までフェノール樹脂を染み込ませてガードする「樹脂処理」
といった技術も“栄養を与えない”工夫のひとつです。
⑤高耐久材を使う
木材には、木材ごとに“抽出成分”という、香りや性質を決めるエッセンスのようなものが含まれています。


なかでもヒノキやヒバのような木には、腐朽菌の成長を抑える、ちょっとした自衛力のような “抽出成分” がそなわっていて、自然のままでもけっこうがんばってくれます。
こうした木は“高耐久種”と呼ばれ、防腐処理をしなくても長く使えることが多く、頼もしい存在です。
そのため、こういった材種を選ぶというのも、腐りにくい木材活用という意味合いでは大切です。



オレ、ヒノキは森でよく見るぞ!



本当にヒノキはすごいんだよ(ヒバはもっと)



ただ、これって新しく使う場合の話ダロ?もう何かの木使ってる人には不向きな情報だゾ
ただし“高耐久”といっても、実際には、木の外側にある “辺材” にはその成分が少なかったり、個体差があったりと、完全とはいえません。
そしてもうひとつ、覚えておきたいことがあります。
それは、この “抽出成分” たちは、とてもデリケートなこと。
その多くは揮発性や水溶性が高く、つまり、時間がたつと、香りのように抜けていったり、雨で流れ出してしまったりします。
「はじめは強かったのに、知らないあいだに……」ということもあるので、そのあたりは注意です。


↑出典:木材学応用編(海青社)
⑥保存処理剤を使う
保存処理というのも、腐りやすい木を長持ちさせるための手段です。
この処理は、菌による腐朽と、シロアリによる食害の両方に対応するものが一般的です。
たとえば、防腐・防蟻剤を木の内部までしっかり浸透させる “加圧注入処理” という方法があります。
この処理を施された木材は、最低でもヒノキの心材の2倍以上の耐久性が得られるとされていて、適切な条件で使えば、それ以上の差が出ることもあるのです。
「辺材を含む材」や「もともと耐久性の低い樹種」を、少しでも安心して使いたいとき。
あるいは、「高耐久材」に、さらなる耐久性をもたせたいとき。
そんな場面で、保存処理はしっかり働いてくれる心強い手段になるのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
アカデミックな内容に思えるかもしれませんが、意外と感覚とフィットする部分もあったのではないでしょうか。
腐ってしまっている木を想像したとき、「たしかに、あの要素がそろっていたかも」と思い当たる場面が浮かんだ方もいるかもしれません。
水が溜まりやすかったり、風通しが悪かったり、となりの古材がくっついていたり──
でも、そうしたすべての条件を整えて腐朽を防ぐというのは、実際にはなかなか難しいものです。
だからこそ、“高耐久材” のありがたみも見えてきます。
保存処理などがなかった昔、ヒノキやヒバが大切な部分に選ばれてきたのも、腑に落ちますね。
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