【漫画付】サワラ(椹)の適材適所【|寿司桶にはなぜサワラ?その特徴をまったり解説

おひつ、風呂桶、飯台──。

昔ながらの日本の台所やお風呂にある、暮らしの名脇役たち。

そんな道具たちを生み出してきたのが、「サワラ(椹)」という木です。

もしかしたら、その名前を聞く機会は多くないかもしれません。

しかし、「サワラがなければ日本の水まわり文化は、もう少し“薄い”ものになっていた──」

そう言っても大げさではありません。

今回はそんなサワラにスポットライトを当て、なぜヒノキやスギではなくサワラが台所の道具に選ばれてきたのか、その『適材適所』の秘密をまったりと紐解いてみたいと思います。


目次

サワラとは?|ヒノキにそっくり。でも、、、

“激似”ヒノキとの比較

はじめに言ってしまいますが、サワラはヒノキにそっくりな木。

それもそのはず。サワラ(椹)は、ヒノキ科ヒノキ属の木。

いわば“ヒノキのいとこ”のような存在です。

↑サワラの葉

↑ヒノキの葉

↑サワラの木

↑ヒノキの木とスギの木

どうですか、とても似ていると思いませんか?

でも実は、葉っぱの裏側を見ると、ちょっとした「違い」が隠されています。

葉を裏返すと白い線(気孔線)が入っているのですが、ヒノキが「Y」の字に見えるのに対し、サワラは「X」の字を描いています。

↑ヒノキとサワラの気孔線の違いイメージ

もし森で似た葉っぱに出会ったら、そっと裏返して、この小さな暗号のような模様を確かめてみてください。

また、見た目の上では「枝つき」についても、「ヒノキの方が密で、サワラは(ヒノキに比べ)枝がまばら──」そんな風に言われていますが、こちらの方が見分けにくいかと思います。

(ヒノキと)見た目は同じ、中身は別物

しかし、いざ手に取ってみると、その“違い”がもっとハッキリと見えてきます。

・香り──ヒノキのような強い芳香はなく、サワラはごく控えめ

・重さ──サワラは比重0.34でとても軽い

・強度──ヒノキより柔らかく、構造材よりも生活道具向き

・色味──白っぽく、光沢控えめ。ヒノキほど黄色味が強くない

樹種香り重さ(気乾比重)強度イメージ特徴
サワラ微香約0.34軽軟(構造材には不向き)白っぽく光沢が少ない。軽くて水に強い。
ヒノキ強い芳香約0.41高い(構造材に適する)やや黄色みがあり光沢がある。強度が高い。
スギ独特の芳香約0.38比較的柔らかい赤みがあり木目が粗い。

見た目はヒノキとそっくり、でも性質は”控えめ”。

それが“サワラ”なのです。

「さわらか」な姿から生まれた名前

サワラという名前は、古語の「さわらか(爽らか)」──

「ごてごてしていない」「すっきりした」という意味の言葉に由来するといわれています。

そして、“枝ぶりがヒノキほど密ではなく、どこか軽やかに見えるサワラの姿が、
この『さわらか』という印象に重ねられたのではないか”、そんな説もあります。

あくまで一説ではありますが、サワラの控えめで整った佇まいを思うと、名前と木の性格がどこかしっくり結びついて感じられます。

サワラの特徴|軽くて、水に強くて、主張しない

“ヒノキのいとこ”のようであり、“控えめ”なサワラ。

ヒノキとの比較でも見えてきた部分もありますが、その特徴は大きく3つあります。

それは──

①軽いこと ②香りが控えめなこと ③水に強いこと。

ひとつひとつ見ていきましょう。

① 軽い

サワラは、日本の針葉樹の中でもとても軽い木です。

比重でいえば約0.34。

ヒノキ(約0.41)だけではなくスギ(約0.38)よりも軽く、木材の中でも最も扱いやすい部類に入ります。

この軽さは“持つ、運ぶ”──そういった作業における“ありがたみ”につながります。

② 芳香(香り)が少ない

サワラの香りは、ほんのり木のぬくもりを感じる程度。

「香りがないのか、、、だとするとリラックス効果もないんだろうな」

そう残念に思われるかもしれません。

しかし、それは決して“無個性”ということではありません。

香りがないというのは、“相手を立てる”能力にもなりえます。

例えば、香りのすばらしい食べ物が相手の時。

こういった時、その“控えめ”さが、“品のよさ”にもなるのです。

③ 水に強い

そして大きな特徴がもうひとつ。

それは“水に強い”ということです。

なんと、京都の銀閣寺の屋根にも使われているほどです。

軽くて、水や湿気に強い──

まさに日本の風土に合った木でもあったのです。

【木の適材適所】サワラの活躍場所は「水回りに食回り」

さていよいよ、今回のテーマの本題です。

①軽いこと ②香りが控えめ ③水に強い

このサワラという木の3要素を考えたとき、水回りで使う道具たちがいかに【サワラの適材適所】であるか、お分かりいただけたかと思います。

  • おひつ
    ←木の香りがほとんどないから、ごはん本来の香りを損ねない。さらに、適度に水分を吸ってくれるため、ご飯がベチャつかずふっくらと保たれます。

  • 風呂桶・水桶・タライ
    ←水に強く、湿気に負けない。それ自体の重量も軽い。

  • 建築材(屋根材など)
    ←軽さがあり、湿度への強さがある。
    ※実際に現在の建築現場では見ることは多くないですが。

「サワラの性質が、ちょうどいい──」

そんなシーンが日本のくらしにはいっぱいだったのです。

木曽の森で守られてきた「木曽五木」のひとつ

今でこそ、タイル、塩ビ系材料、ステンレスなど、水回りで使える材料はたくさんあります。

しかし、時を遡って、戦前、そして文明開花する以前の文化では、それらの材料は豊富に使われていたわけではありません。

当然、水回りに強いサワラの価値は高くなります。

それは長野県・木曽地方を代表する木で、江戸時代には伐採が厳しく制限された「木曽五木(きそごぼく)」のひとつにも数えられてたほどです。

ヒノキ、アスナロ、ネズコ、コウヤマキ──

どれも日本の森を代表する貴重な木々。

こういった事からも、サワラが日本の文化の上で大切に使われてきた木ということがわかります。

↑サワラの断面

まとめ

いかがでしたでしょうか。

木は木でもそれぞれの特性があり、その特性を見抜き「ここぞ」という場所に使用してきたのが日本の暮らしの歴史だったわけです。

見た目では分かりにくい「強すぎず、香りすぎず、軽やかで、水に強い」こんな特性をもつサワラを、おひつ、桶、風呂、に大抜擢した昔の日本人の観察眼には舌を巻かざるを得ません。

サワラは、暮らしの名脇役たちを支える“控えめな主役”。

名前から性格まで、まさにそれを体現する木だったのです。

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この記事を書いた人

ユカワニ
ユカワニ

木が大好きな一級建築士。トリとイノシシと一緒に木の学びをお伝え。

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