
神社や公園で見かける大きな大きなクスノキ。
見上げると空を覆うほどの巨大な姿は、地域のシンボルツリーにもなっていたりします。
でもここでひとつちょっとした疑問。
あの大きくて立派な木を切って「木材」にすると、いったいどんな姿になるのでしょうか。
なんと、あんなに力強い外見をしているのに、中に秘めた木材としての素顔は、意外にも繊細。
今回は、そんなクスノキが木材になったときの姿や、古くから“日本の暮らし”のそばではどう使われてきたのかを辿ってみます。






巨木という外見と、繊細で個性的な中身
広葉樹の中では比較的柔らかい
まずはクスノキの「硬さ」や「重さ」から。
一般的に、広葉樹の木材は硬くて重いイメージを持たれがち。
しかし、クスノキの比重はおよそ0.52。
これは広葉樹の中では比較的“軽め”と言えます。
その硬さもトチの木などと同じくらい“柔らかい”部類に入ります。
ゴツゴツとした力強い外見とは少しギャップがあるかもしれませんね。
ただ「適度な柔らかさ」が、あとでご紹介する様々な用途に生きてきます。

↑クスノキの樹皮
木材になってもつづく「樟脳(しょうのう)」の香り
そしてクスノキを語る上で外せない最大の特徴が、その香り。
これは「樟脳(しょうのう)」と呼ばれる精油成分の香りで、なんと虫を遠ざける力を持っています。
クスノキが自然界で生き抜くために身につけた、目に見えないバリアのようなものでしょうか。
一方で、そのスーッとした特有の匂いは、人間にとっては、気分をスッキリとリフレッシュさせてくれる効果もあります。
その香りは製材されてから長い時間が経っても比較的長く続きます。
だからこそ(天然の)防虫ブロックなどにも使われているのです。
ちなみにクスノキという名前の由来にも、この“香り”がベースになっている説があります。
香りの薬効から「クスリノキ(薬木)」や「クスシ(薬師)」と呼ばれたという説です。
それ以外には、神秘的な存在感から「奇(くす)しき木」と呼ばれた説などありますが、いずれにしても古くから重宝されてきたことがうかがえます。

↑蒲生の大楠
複雑な木目と、しっとりとした木肌
さらに香り以外のクスノキの魅力として挙げられるのが、その木肌。
ちょっと近づいてみると、色合いがとても複雑なことに気づきます。
単純な茶色ではなく、なんだか白っぽい地の中に赤や緑などの色が混ざり合っているような気配もします。
そして、触ってみると感じられる“しっとり”感。
これは油分を多く含んでいるためで、削った面はすべすべとした滑らかな手触りになります。
荒々しい皮の下に、こんなにも繊細な表情を隠し持っているのですね。

↑クスノキの木目
クスノキはどんなものに使われてきたか?
それではクスノキはどんなものに使われているのでしょうか。
ここまでの話をまとめてみますと、
クスノキはとにかく大きく成長するため、巨大な材が取れる。
精油分を含んでいるおかげで虫に強く、長持ちしやすい。
この“大きさ”と“保存性の高さ”が活かされる道具、それこそがクスノキの活躍場所でした。
①大事なものをしまう「箱」
そういったクスノキの個性が光るのが“箱”です。
昔の人は、クスノキの香りが虫を遠ざける性質をよく知っていました。
だからこそ、虫から守りたかった重要な文書や、大切な着物を保管する箱に、あえてクスノキ材を選んできたのです。
現代のような防虫剤がなかった時代、香りの力で大事なものを守ってきた昔の人の知恵には感心させられるばかりです。
(ただその効果の裏返しではありますが、香りが強いため、匂い移りして困るものには向きません。)

↑クスノキの衣装箱(イメージ)
②飛鳥時代から仏様として彫られてきた歴史
そしてもうひとつ代表的な使われ方の例として挙げられるのは、仏様のお姿になることでした。
特に“飛鳥時代”に彫られた仏像の多くはクスノキで作られており、奈良にある法輪寺の薬師如来坐像などもそのひとつです。
虫がつきにくく長持ちしやすいこと、大木になって材が取りやすいこと、さらに適度に柔らかく加工しやすいこと。
どうでしょうか、仏像を彫り出すのにはとても都合がよいことも何となく想像しやすいのではないでしょうか。
③まろやかな音を奏でる「木魚」
そんなクスノキ、仏像としての役割の他に、もうひとつ精神的な拠り所としても使われてきました。
それは、お寺の和尚さんが叩く「木魚」です。
実はあれも多くがクスノキで作られています。
なぜクスノキなのかというと、冒頭で触れた「適度な柔らかさ」があるからです。
硬すぎず柔らかすぎない絶妙な性質だからこそ、あの「ポク……ポク……」という角のないまろやかな音を響かせることができるのです。
心を落ち着かせてくれるあの音は、クスノキの柔らかさのおかげだったわけですね。

↑クスノキの木魚
まとめ
神社や公園で見上げる巨大なクスノキ。
その“中身”についてお話ししてきましたがいかがでしたでしょうか。
材は大きく、木材になってもスーッとした香りを放ち、複雑な色合いとしっとりした手触りがある。
それは、虫を遠ざける力で大切なものを守る箱になり、長い時を越える仏像にもなり、まろやかな音で心を静める木魚にもなりました。
どれも、クスノキの使い方として合理的で腑に落ちるものばかりです。
今ほど化学が発展していなかった時代の日本人の「自然を見る観察眼」には唸らされるばかりです。


