
花に花言葉があるように、木にも小さな「意味」が込められることがあります。
昔から人びとは、ある木を“福を呼ぶ木”、ある木を“魔除けの木”として大切にしてきました。
そんな木々は、まとめて「縁起木(えんぎぎ)」と呼ばれています。
“願いを木に託す”というのは、なんとも乙(おつ)なお洒落さです。
今回は、その中でも少し不思議な、“お金の名を持つ縁起木”についてお話していこうと思います。



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縁起木とは?
人の願いが込めれた“縁起木(えんぎぎ)”
そんな縁起木には、いくつかの特徴があります。
・冬でも葉を落とさない常緑樹であること。
緑を絶やさない=生命が続く=繁栄──
そんな前向きな願いが込められてきました。
・赤い実をつけること。
赤は古くから“魔除け”と“豊穣”を象徴し、冬の寒さの中で鮮やかに残る実は、豊かさそのものの象徴とされました。
・冬に実ること自体が強さの象徴。
厳しい季節にも負けない生命力は、長寿や家運の安定に重ねられてきたのです。
・名前そのものが縁起のよいものであること。
たとえば今回のテーマでも“お金の名を持つ木々”は、願いがそのまま名前になっています。
加えて、こうした木々は江戸〜明治の園芸文化の中で大きく人気を集め、品種改良や鑑賞の楽しみが一気に広がった歴史も持っています。
つまり、縁起の良さ・冬の姿・名前の意味・江戸の園芸ブーム──これらが重なり、同じカテゴリーとして親しまれてきたわけです。
そんな“縁起の物語”をまとった木々の中でも、特に知られているのが一両・十両・百両・千両・万両の五種類。
ここからは、それぞれの木の個性と名前に込められた意味を、ひとつひとつ丁寧に見ていきたいと思います。

お金にかんけいする木もたくさんあるんだね!



景気の良い木たちダ。悪くなイ。



どうしてもそういう名前のものにつられちゃうよね
一両(アリドオシ)


↑一両(アリドオシ)の実
一両(いちりょう)は、アカネ科の常緑低木で、別名「アリドオシ」とも呼ばれます。
名前の由来は「蟻でさえ通れないほど鋭いトゲをもつ」からとされています。
小柄ですが、冬になると赤い実をきれいに実らせます。
「千両・万両」と並んで「千両万両有り通し(=“あり通し”)」という語呂合わせで洒落た名前として知られてきました。
※日本語の「通し」には、「続いている」「途切れない」といった意味があります。
たとえば「雨が降り通し」といえば、「雨がずっと降り続いている」ということ。
この「通し」に「あり(在り)」が重なると、「あり通し」となり、「物事が絶えず続いていく」「家や幸せが長く続く」という前向きな願いを表す言葉になります。
ちなみにアリドオシは、もともと乾燥した林の中に生える木なので、庭に植えても土質や日当たりをあまり選びません。(ただし直射日光を避け、半日陰くらいの場所の方がよく育ちます)



ダジャレだ!おもしろーい!



千両、万両がずっとある(ありどおし)。なかなかいい視点ダ!



昔の人ってそういう語呂考えるセンスすごいよね!
十両(ヤブコウジ)


↑十両(ヤブコウジ)の実
十両(じゅうりょう)は、サクラソウ科(旧分類:ヤブコウジ科)の常緑小低木で、正式には「ヤブコウジ」と呼ばれます。
高さ20〜30cmほどと背が低く、地面近くで赤い実をつけるのが特徴です。
「千両・万両」と並んで縁起木として親しまれる中で、「十両」という呼び名が定着しました。
江戸時代の『本草綱目啓蒙』にもすでに登場し、「縁起の良い木」として親しまれていた記録があります。
明治中期には、新潟を中心に数多くの園芸品種が作られ、一大ブームを巻き起こしました。
人気の品種は当時、投機の対象にまでなり、上京の市場で高値で取引されたほど。
小さな「十両」が、文字どおり“千両万両”の価値を生むこともあったそうです。



おい、ゆかわ。今の時代にこういう風になる草木はないのカ?!



どうだろうね、ただ17世紀にオランダでチューリップバブルがあったように、こういうのは万国共通なんだね。



なに、チューリップが食えたとか?
百両(カラタチバナ)


↑カラタチバナの実
百両(ひゃくりょう)と呼ばれる木の正体は、サクラソウ科の常緑小低木「カラタチバナ」です。高さは50cmほど。
細い枝に並ぶように赤い実が実ります。
名前の「百両」は、日本で考えられたものではなく、もともと中国にあった「百両金」という呼び名が伝わったのだそうです。
中国由来の名前がそのまま日本に根づいた、というのが面白いところです。
江戸の人びとはこのカラタチバナを好み、園芸の世界でも人気を集めました。
斑入りの葉や、形の変わった葉をもつ株が次々と選ばれ、ひとつの鉢に数百両もの値がつくこともあったとか。
当時の園芸ブームの熱気が伝わってきます。


↑カラタチバナの変異品(灌河山人 誌『苐藤果品類考 2編』[1],吉田新兵衞,尼屋與兵衞,寛政9-10 [1797-1798]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2557096 (参照 2025-08-20))
千両(センリョウ)


↑センリョウ
千両(せんりょう)は、センリョウ科の常緑小低木。
名前の由来は、先の百両より実が大きいことから“千両”とされたのではないかと伝えられています。
そして千両は実のつき方がちょっと特徴的。
(万両が葉の下に隠れるように実るのに対し)千両は葉の上に堂々と赤い実を立ち上げるように見せます。この違いは、縁起木を見分けるちょっとした目安にもなります。
また、その人気は俳句の世界にも広がり、冬の季語として詠まれるほどです。
万両(マンリョウ)


↑マンリョウ
万両(まんりょう)は、サクラソウ科(旧分類:ヤブコウジ科)の常緑小低木。
特徴は、枝の下側に垂れ下がるようにつく赤い果実。
幹の先端近くで分かれた枝の裏側に、真っ赤な実が房状にぶら下がります。
この姿は、千両の「葉の上に立ち上がる実」とは対照的で、見分けやすいポイントになっています。
また千両と同じく万両も、俳句では冬の季語になっています。
さらに万両は、古典園芸植物の一つとしても長い歴史をもちます。
江戸の園芸文化の中で、多様な品種が選抜され、実の色も赤だけではなく、白や黄色の品種も生み出されました。
江戸後期にはなんと45品目が記録されており、大きな園芸ブームを巻き起こしたのです。
その後、時代の流れとともに数は減りましたが、現在でも20種前後の品種が受け継がれています。



すごいね、たくさんの種類が作られたんだね



全く、みんな金のことしか考えないやつらばっかりダ



(、、、トリさん、きみもね、、、)
5つの縁起木をならべて見てみると(比較表つき)
ここまで“一両から万両まで”をひとつずつ見てきましたが、あらためて横にならべてみると、それぞれの個性がよりくっきり見えてきます。
名前の由来、実のつき方、育てやすさ──
下の比較一覧では、5つの縁起木をぱっと見渡せるようにまとめました。
育ててみたい木や、贈り物に選びたい木を考えるときの参考にどうぞ。
(※高さは一般的な鉢植えサイズの目安です)
| 名称(通称) | 正式名 | 科名 | 樹高の目安 | 実のつき方 | 名前の由来 | 縁起としての意味 | 育てやすさ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 一両(いちりょう) | アリドオシ | アカネ科 | 20〜30cm | トゲの間に赤い実 | 「蟻さえ通れない」鋭いトゲ | “あり通し”=家運が続く | 半日陰で育てやすい |
| 十両(じゅうりょう) | ヤブコウジ | サクラソウ科(旧分類:ヤブコウジ科) | 20〜30cm | 地際につく赤い実 | 江戸期園芸の呼称が定着 | 小さくても実り続く=豊かさ | 丈夫で室内でもOK |
| 百両(ひゃくりょう) | カラタチバナ | サクラソウ科 | 約50cm | 枝に沿って整列する実 | 中国の「百両金」由来 | 実り・家内安全 | 半日陰でOK |
| 千両(せんりょう) | センリョウ | センリョウ科 | 40〜100cm | 葉の“上に”立ち上がる実 | 実が大きいことから | 商売繁盛・福を呼ぶ木 | 日陰でもよく育つ |
| 万両(まんりょう) | マンリョウ | サクラソウ科(旧分類:ヤブコウジ科) | 50〜100cm | 葉の“下に”房状に垂れる実 | 多くの園芸品種がある“万の価値” | 財運・実が集まる | 日陰でも育つ |
縁起木を贈るシーンと選び方
こういった一両、十両、百両、千両、万両といった縁起木は、ただの鉢植えではなく、願いを託す贈り物にもなり得ます。
めでたさ、豊かさ、冬でも凛と実を成す力強さ──
その意味するところは、正月飾り、商売繁盛、新築祝いなど、“相手を想う” そのモノ以上の価値になります。
例えば、誰かに贈るときに(ただ渡すだけでなく)「この木は冬でも赤い実を残すんですよ」とひとこと添えてみると、日本的心意気を演出できるかもしれません。



確かにこういう日本の文化的な洒落が効いたものはセンスがいいナ



でしょ?「実はこれは〜なんですよ」って具合に。



赤い実もかわいいしね!
まとめ|赤い実への願い
江戸のころの一両は、「一両あればひと月暮らせる」といわれたそうです。
そう考えると、千両や万両の名がどれほどの夢(時には下心もあるでしょうが)を背負っていたか、想像できます。
江戸の園芸ブームを経て、明治の地方での栽培熱、そして現代の正月飾りへ──。
赤い実は、見た目は小さくても、時代を超えて続いてきた人の願いを託されてきたもの。
もし街角で赤い実を見かけたら、ほんの少し足を止めてみて、そんな想いで眺めてみると面白いかもしれません。


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