
一本だけポツンと立っている竹。
そんな竹を見たことある人はいないと思います。竹は必ずと言っていいほど、寄り集まって「竹林」をつくっています。
地上にスッと伸びる姿を見ると、一本一本が独立した木のように見えますが、何気なく見ているその風景の地下には不思議な生態が隠されています。
(前回は、竹が持つ「木のように強くしなやか」な不思議な性質をお話ししました。)
今回は視点を変えて、森や山でよく見かける「竹林」そのものの秘密に迫ります。
自然の神秘から、いま日本中で問題になっている「竹害」のメカニズムまで、竹のリアルをお届けします。








竹がポツンと生えない理由は?竹の生態と地下茎の仕組み
なぜ竹は1本だけで生えていないのか?
なぜ必ず「竹林」とともにその姿があるのか?
その答えは、これらがすべて“地下で繋がっている”からです。
地面からちょこんと顔を出す「タケノコ」。
そのかわいらしい姿のさらに下には、とんでもなくたくましい仕組みが隠れています。 そこには「地下茎(ちかけい)」と呼ばれる、根のような幹が網の目のように広がっているのです。

↑地下茎イメージ
タケノコは親竹からの「仕送り」で育つ
そしてこれは、ただの「根っこの広がり・共有」だけの意味合いには収まりません。
この地下茎は、親竹が光合成で作った栄養をためる“貯金箱”であり、新しい竹を生み出すためのへその緒でもあるのです。
春になると、その地下茎の節から芽が顔を出し、ぐんぐん伸びてタケノコになります。 竹の赤ちゃんは、自分ではまだ光合成ができないので、地下の親から“仕送り”をもらいながら育ちます。
つまりタケノコは、自分で土から顔を出しているように見えて、実は”親の貯金で育つ”タイプなのです。
そして地中では、竹の地下茎が毎年数メートルも伸びることがあります。見えないところで、まるで地球の静脈のように張りめぐらされたネットワーク。
そう考えると1本に見える竹は、実は地下で繋がった「巨大な生命体」だと言えそうです。
ちなみに、タケノコをたくさん生み出すのは、エネルギーにあふれた“若い地下茎”です。
日本の竹林を構成する主な竹の種類と見分け方
そんな驚異的なネットワークをもつ竹ですが、日本の竹林を構成する竹には、主に3つの種類があります。
竹林を歩いていても意識することはあまりありませんが、よく見ると節の輪の数などに違いがあり、それぞれに違った“性格”を持っているのです。
モウソウチク(孟宗竹)
日本の竹林で一番よく見る、大型の竹です。
太さはなんと直径18センチになることもあり、がっしりとした体格。
(見分け方のポイントの)「節の輪は一重」です。
タケノコの旬は春先の3〜5月。アクが少なく肉厚で甘いため、筍ごはんや若竹煮に使われるのはだいたいこの子。
竹界の“グルメ担当”です。(※しかし後述する「竹害」の主な原因にもなりやすい、生命力にあふれた品種でもあります)

↑モウソウチク(孟宗竹)
マダケ(真竹)
「節の輪が二重」で、体はしなやか、弾力があるタイプ。
皮にはヒョウ柄のような模様があります。
竹細工に非常に向いており、職人さんたちはこのマダケを細く割って薄くし、美しいざるや籠を編み上げます。

↑マダケ(真竹)
ハチク(淡竹)
マダケと同じく「二重の節輪」ですが、少し小柄なタイプ。
割りやすく扱いやすいので、小物づくりや工芸品で活躍しています。

↑ハチク(淡竹)
竹を見分けたいときは、「節の輪が一重ならモウソウチク、二重ならマダケかハチク」と覚えておくと、ちょっと“通っぽく”見えます。
日本中で問題に?「竹害」の正体と、放置竹林が広がる仕組み
驚異的な生命力を持ち、地下で繋がる竹。
しかし現在、その力が人間の手に余り、“竹害(ちくがい)”と呼ばれる深刻な環境問題を引き起こしています。
ここでは、竹害とは具体的にどのような現象なのか、そしてなぜ起きるのか、その仕組みをお伝えします。

そもそも「竹害」とは?放置竹林が森を飲み込む現象
「竹害」とは、手入れされなくなった竹林(放置竹林)が、その強烈なパワーで周りの里山や畑、さらには私たちの住む場所にまでどんどん広がってしまう現象のことです。
一本の竹が侵入すれば、地下茎を通じてあっという間に仲間を増やし、周囲の土地を飲み込んでしまいます。
風情ある美しい竹林が、一転して周囲を脅かす存在になってしまっているのです。
森が枯れ、土砂崩れも…?竹害がもたらす深刻な被害
竹林がコントロールを失って広がることは、具体的に次のような深刻な被害をもたらします。
森の生態系が壊れてしまう
竹が日光を独占するため、雑木林の木々や足元の草花が育たず、そこに住む動物や昆虫も姿を消してしまいます。
多様な命が失われ、竹だけの「緑の砂漠」のようになってしまうのです。
斜面が弱くなり、土砂崩れのリスクが高まる
特に怖いのが土砂災害です。竹の地下茎は横には広く張りますが、深さは地表から30〜50cm程度と比較的「浅い」のが特徴。
放置された竹林では、地中深くまで根を張ってくれていた他の樹木が負けて減ってしまうため、大雨が降ったときに斜面全体を支える力が弱まり、土ごと「すべり台」のように崩れ落ちてしまう危険性が指摘されています。

↑斜面での竹林の危険性(根が深くない)
生活インフラへの被害
地下茎や根が強い力で伸び、住宅の床下を突き破ったり、排水管の隙間に入り込んで壊してしまったりする事例も報告されています。
なぜ被害が広がる?竹の「繁殖力」と人間の「暮らしの変化」
では、なぜ今になってこのような問題が起きているのでしょうか。
その背景には、竹の持つ「生物としての強さ」と、人間の「暮らしの変化」が重なってしまったことが挙げられます。
①竹の圧倒的な「成長力」と「繁殖力」
お話しした通り、竹の地下茎は年間で数メートルも伸びて、ものすごいスピードで新しい竹を生み出します。
常緑で背も高いため、あっという間にその森の“日光を独り占め”してしまい、他の植物が育つのを邪魔してしまいます。
②人間の暮らしの変化と「管理困難」
実は、昔はこれほど竹害は問題になりませんでした。
それは建材や竹細工、燃料、そして食料(タケノコ)として、人がこまめに伐って生活に利用し、自然と竹林の広がりをコントロールしていたからです。
しかし、安価なプラスチック製品の普及や、里山を手入れする人の減少・高齢化によって、竹林の管理が難しくなってきました。
つまり使用ボリューム・管理ボリュームを、竹の生命力が上回ったのが「暴走」とも見られる「竹害」の原因だったのです。
巨大生命体の暴走を止める!有効な竹害対策と資源利用
では、竹害に対して有効な対策はあるのでしょうか。その答えは、これまで触れてきた“竹の生態系”にあります。
夏の伐採と地中障壁による物理的な対策
①継続的な伐採で「親の貯金」を減らす
新しく生えた竹を年に数回、数年かけて刈り取ることで、地下茎の“貯金(栄養)”を消耗させます。
特に、竹が新しい茎をつくるために一番エネルギーを使う夏(6〜8月ごろ)に刈ると効果的といわれています。
②地下茎に「防波堤」をつくる
竹がこれ以上進路を広げないように、地中にトタン板やコンクリート板を50cm〜1mほど埋め、地下茎をブロックしてしまう方法です。
いわば“竹に対する防波堤”です。
竹炭やバイオマス燃料など、資源としての有効活用
古来から続く、一番シンプルで美しい方法。竹をどんどん使い、そしてどんどん伐る、そのサイクルを回すことです。
現在では伝統的な竹細工だけでなく、こんな新しい“資源”としての使い道も広がっています。
竹炭・竹酢液:消臭、調湿、土作りのお供に。
竹パウダー:農業用の肥料や、生ゴミ処理に。
バイオマス燃料:クリーンな発電用の燃料として。
竹チップ:道を舗装したり、雑草を防いだりする材料に。

↑竹炭

↑食べる竹炭パウダー
まとめ|竹と人間の“ちょうどいい距離感”を目指して
竹は、ただ光を求めて伸び、仲間を増やしていく。その結果、気づいたらあっという間に周りを飲み込んでしまうこともあります。
でも、少し見方を変えれば、竹はとても真っ直ぐで正直な植物なだけとも言えます。
「竹を使う」ということは、受け手となる人間との関係性そのもの。
適切に利用し、管理し続けることで、竹の真っ直ぐさに人間が“節度”を与えてあげることこそが、これからの森とのちょうどいい付き合い方なのかもしれません。


