
「人生100年時代」
最近、そんな言葉をよく耳にするようになりました。
しかし、これからお話しする「彼ら」にとって、100年という時間はほんの準備運動。
あるいは瞬きひとつ分の時間にすぎないのかもしれません。
世界には、私たちが生まれるずっと前、それこそピラミッドが作られる頃から、同じ場所で呼吸を続けている木が存在します。
雨の日も風の日も、文明が興っては滅びる様子を、ただ静かに見つめてきた長老たち。
今回は、そんな気が遠くなるような時間を生きる「世界一古い木」について、その不思議な生態や、日本のあの木との関係まで、もくめディア的に掘り下げてみようかと思います。












世界一古い木はアメリカにある「メトシェラ」
もったいぶらずに、まずは結論から。
現在、ギネス世界記録などで「世界で最も古い木(単木)」として認定されているのは、アメリカのカリフォルニア州にいる「メトシェラ」です。

↑メトシェラの木 イメージ
樹齢4850年以上|文明を見守り続けた長老
メトシェラは、ブリッスルコーンパイン(イガゴヨウマツ)という種類の松の木です。
その樹齢は、年輪年代学による測定で4850年以上と言われています。
4850年前というと、ピンとこないかもしれませんが、エジプトで最初のピラミッドが作られ始めた頃。
あるいはメソポタミア文明が栄えていた頃です。
その時代に、この木はすでに大地に根を張り、芽を出していたのです。
ローマ帝国の繁栄も、産業革命も、すべて遠い場所での出来事としてやり過ごし、
今もなお、乾いた岩山で葉を茂らせています。
場所は「最高機密」?|地図に載らない理由
これほど偉大な木なら、ぜひ一度会いに行ってみたい。
そう思うのが人情というものです。
しかし、残念ながらメトシェラの正確な場所は一般には公開されていません。
Googleマップで検索しても、ピンポイントの場所は出てこないのです。
その理由は、木を保護するため。
実は過去に、研究調査の過程で「プロメテウス」と呼ばれたさらに古い木が、誤って伐採されてしまうという悲しい出来事があったそうです。
二度と同じ過ちを繰り返さないよう、現在メトシェラは、一部の科学者だけがその居場所を知る「保護された王」として、ひっそりと生きています。
有名税を払わないことこそが、長寿の秘訣なのかもしれません。

↑GoogleMapでも出てこない
【驚愕】「根っこ」を含めると順位が変わる?
さて、ここから少し話がややこしく、そして面白くなります。
「木」という生き物をどう定義するかによって、世界一の座が入れ替わるのです。
先ほどのメトシェラは「一本の幹」として世界最古でした。
しかし、「幹は変わっても、根っこ(遺伝子)が同じならひとつの生き物」と考えると、さらに桁違いの怪物が現れます。
樹齢9550年!?|スウェーデンの「オールド・ティッコ」
スウェーデンの国立公園に生えているトウヒ。
その名も「オールド・ティッコ」。
この木の根の年代測定を行ったところ、なんと約9550年という結果が出ました。
9550年前といえば、地球が最後の氷河期を終えた直後です。
写真を見ると、意外なほどひょろりとしていて、若々しい姿をしています。
それもそのはず、今見えている地上の幹自体は数百年程度のもの。
この木は、幹が老いて枯れても、地下の根から新しい幹をクローンのように生やすことで命のリレーを続けてきたのです。
見た目は若者、中身は長老。
植物ならではの巧みな生存戦略です。

↑オールド・ティッコ イメージ
規格外|数万年生きる森?「パンド」の存在
クローンといえば、さらに規格外の存在もいます。
アメリカのユタ州にあるアスペン(ポプラの一種)の森、通称「パンド」です。
一見すると広大な森に見えますが、実は地下ですべての根がつながっており、遺伝子的には「ひとつの個体」であることがわかっています。
その年齢については議論が続いていますが、数千年から、一説には8万年に及ぶとも言われています。
もはや歴史というより、地質学のレベルです。

↑アスペンの木
世界一古い木ランキング【TOP3】
話を「一本の木(非クローン)」に戻しましょう。
やはり私たちにとって馴染み深い、太い幹を持つ巨樹たちのランキングも気になるところです。
現在確認されているTOP3をご紹介します。
①メトシェラ(アメリカ)
推定樹齢:約4855年
先ほど紹介した不動の王者です。
標高3000メートルを超える過酷な環境が、その身を鋼のように鍛え上げました。
②グラン・アブエロ(チリ)
推定樹齢:3000年以上(※シミュレーションでは5000年超えの説も)
南米チリに生育する「パタゴニアヒバ」。
最近の研究(統計モデル)では「メトシェラを抜く可能性」も示唆されており、世界中の植物学者が熱い視線を送っています。

↑グラン・アブエロ イメージ
③サルヴェ・アバルクーフ(イラン)
推定樹齢:約4000年〜4500年
アジアを代表する長寿の木。
大きなイトスギで、ゾロアスター教の聖木としても知られています。
科学的な数値ではありませんが、古くから人々の信仰と共に生きてきた木です。

↑サルヴェ・アバルクーフ イメージ
日本の「縄文杉」は世界レベルで見ると?
「古い木」と聞いて、私たち日本人が真っ先に思い浮かべるのは、
やはり屋久島の「縄文杉」ではないでしょうか。
日本が誇るこの巨木は、世界ランキングではどのあたりに位置するのでしょう。
推定樹齢のミステリー(2000年〜7200年)
実は縄文杉、世界ランキングに入れるのが非常に難しい木でもあります。
なぜなら、推定樹齢の幅があまりにも広いからです。
「2000年説」から「7200年説」まで。
これほど意見が割れる理由は、幹の中心部分が腐って空洞になっており、正確な年輪を数えられないため。
外側の若い部分から推測するしかないのですが、成長の遅い屋久杉のこと、7000年生きていても不思議ではないという意見も根強くあります。
もし7200年が真実なら、理論上は世界最古級の木の一つということになります。

↑縄文杉
それでも「縄文杉」が尊い理由
正確な数字が出ないからといって、縄文杉の価値が下がるわけではありません。
世界最古の木々の多くは、乾燥した高地で、体をミイラのように硬くして生き延びています。
対して縄文杉は、雨の多い屋久島で、苔をまとい、多くの植物を着生させながら、圧倒的な質量の「生」を放っています。
数値としての世界一かどうかよりも、その姿が放つ神々しさこそが、多くの人を惹きつけてやまない理由なのでしょう。
なぜ木は数千年も生きられるのか?
動物の寿命は長くても100年から200年ほど。
なぜ木だけが、これほどの時間を生きられるのでしょうか。
あえて「ゆっくり」生きる
メトシェラのような長寿の木は、栄養の少ない過酷な環境に生えています。
そのため成長は極めて遅く、100年で数センチしか太らないことも。
しかし、ゆっくり育つことで年輪は緻密になり、樹脂を多く含んだその体は、腐敗菌や虫を寄せ付けない強固な鎧となります。
豊かすぎない環境が、かえって彼らを強くしたのです。
部分的に死ぬことができる
動物は心臓が止まれば終わりですが、木は違います。
幹の大部分が枯れてしまっても、樹皮のほんの一部が生きて水分を通していれば、そこから枝葉を茂らせて生き続けることができます。
全体を守るためにこだわらず、必要な部分だけで生きる。
この潔い「引き算の生き方」こそが、不老のメカニズムといえそうです。
まとめ|時間を封じ込めたカプセル
世界一古い木、メトシェラ。
根っこで生き続けるオールド・ティッコ。
そして、日本の縄文杉。
彼らは動くことはできませんが、その場にいながらにして、数千年の旅を続けてきました。
私たちが普段触れている木のテーブルや、フローリングの床。
もちろんここまでの樹齢ではありませんが、それでも数十年、時には百年近い時間を森で過ごしてきた先輩たちです。
次に木の家具に触れるときは、その木が森で見てきた景色や、過ごしてきた時間に、少しだけ想いを馳せてみると、ただの「モノ」だと思っていた木材が、時間を封じ込めたカプセルのように思えてくるかもしれません。


